わたしが悪うございました。
　以前、尊敬すべき方から教えていただいた『爆乳エロリスト』。
　ジャムを塗ったりしての乳房メッシー凌辱に引いてしまって、ずっと買わずにいたのだが、なんたる不覚。こんなに経つまで放っておいただなんて、なんたる罪。
　まさか、ここまで全編乳にこだわった内容だったとは思わなかったのだ。本番挿入があるのは、全編90分の最後のセクション。それまでは、ひたすら乳、乳、乳なのである。
　そういう構成はポルノ小説──それもフェチ系ならありうる。けれども、アダルトビデオでというのはレアなケースではないかと思う。
　オッパイ星人とは、モザイクで隠される陰部よりは乳房を鑑賞したい人種のことである。たとえ挿入していようと、していなかろうと、乳に視線を注いでいたい、乳を弄んでいたい存在なのだ。
　『爆乳エロリスト』では、その欲望が忠実に再現されている。弾力のありそうな、ムチムチした夏目しおんの爆乳も自分好みでいい。細身の自分にはたまらん乳である。
　カメラ目線でも見せた彼女の視線に見つめられたいものである。

　15年ほど前の話だ。
　大学の頃、自分がまだ教養部時代にえれえ先生がいた。中国文学では有名な先生で、仙人やら怪異やら、その手に詳しいという噂だった。
　講義は一度だけ受けたことがある。
「わたくしは……」という話し方が特徴的で、ひたすら自分の興味の赴くまま、放恣にしゃべっていた。
　その先生の名前は、中野美代子という。
　10年以上経っても名前を覚えている数少ない大学教授の一人である。
　その先生が、『西遊記』の翻訳を岩波文庫で始めた。今、第１巻が出ている。
　これから毎月追いかけるのもいいな、と思いながら、ちびちび読んでいるところである。

　今さらながら、夏目しおんの『爆乳エロリスト』を購入した。
　知り合いの漫画家の方からお話を聞いて、実に２年近く。やっと思い腰を上げたというところである。
　乳シストとして、オッパイ星人として、反省。
　近日中にエロＤＶＤがあと２本ほど届く予定である。それで煩悩充填、また次回作に取りかかるつもりなのだ。
　エロを産むためには本人にエロがたまっていなければならない。
　煩悩はエロの母。
　次回作も、次々回作も、自分は乳です。それしかないのか！　と言われそうですが、それがおれの生きる道。乳道こそ我が道なのです。

　「波」という雑誌がある。
　岩波書店が発行している情報誌のようなもので、1985年当時で70円だったと思う。
　もう20年近く前になるけれど、高校生だった頃、一通の手紙を送った。「小説のハウツーは掲載しないのか？」という問い合わせの手紙だった。
　ただ、その頃の自分は言葉への愛もこだわりもない、ただの夢想家だった。言葉なんて自分の勝手な感覚で使い分けるだけ。迷っても辞典は引かない。
　適当に感覚で「謝意」と「謝罪」「謝礼」を使い分けて手紙を書いた。
　それでもいい気分になっていた。難しい言葉をちょっと使ってみたので、「えっへん」な気分だった。
　２週間後、返事が返ってきた。
　ハウツーはやっていないという答えだったが、驚いたことに、自分の手紙が入っていた。
　それも、赤ペンで添削がされていたのである。
　自分がいい加減に言葉を使い分けていたことを思い知らされて、手紙を前に自分は赤面した。非常に居心地が悪かった。もちろん、その手紙は誰にも見せなかった。
　けれども、今振り返ってみれば、なんとやさしい編集さんだったのだろうと思う。
　編集さんにだって仕事がある。決して暇ではない。田舎の高校生の相手をしている場合ではないのだ。そもそも、編集さんは通信添削のバイトをしているわけではないのである。もっと大切な仕事があるのだ。
　にもかかわらず、編集さんは時間を割いて添削してくれた。「ハウツーはやっていません」とただ書けば終わりなのに、わざわざ赤ペンで添削して返してくれた。そうすることによって作家を夢見る高校生に、「もっとちゃんと調べなさい」と言外で教えてくれたのである。
　なんという温かさ。やさしい愛情。
　あの経験が今の自分を作り上げた……わけでは決してないけれど、でも、それは胸温まる思い出として自分の中で生きつづけている。

　作家志望にもいろんな段階がある。
　最も原始的なものは、小説を書きたいと言っているけれど、「いまだ書いたことがない」というレベル。
　次が、「冒頭付近しか書いていない」レベル。
　次が、「途中まで書くのだけれど、完成させたことがない」レベル。
　さらに「完成させたことがあるけれど、投稿したことがない」レベルとつづく。
　もちろん、次は「投稿したことがあるけど、一次予選で落ちている」レベルである。
　その上となると、「投稿して予選は通っている」レベルになる。
　こう書いていくと、下方向へ向かってだんだんプロに近づいているように見えるけれど、勘違いというか、錯覚という気がしないわけではない。
　50才になるまで小説を書いたことがなかったのに初めて書いて出した小説が賞を獲ってしまう、なんていうのが起こりうるのが、新人賞の世界である。
　投稿歴というのは、ある程度の価値にしかならない。10回投稿するよりは、親しい友人や彼女に酷評されてまた書き直して、また酷評されて書き直し手を10回くり返した方が価値がある。
　最終予選まで残れば編集さんから声が掛かる可能性があるからプロには近くなるけれど、そうでない限りは、それほど明確な差はないんじゃないか……。
　そんなことを、18回投稿した無冠の人は思ったりするのである。

　巨乳顔というか、爆乳顔というのはあるもので、人相学でもボインはわかることになっている。
　見抜くポイントは、「金甲」というところだ。
　鼻頭の両脇にあるふくらみ、張り出しのことである。これがふっくらとして肉付きがいいと、ボインちゃんということになる。ただし、この場合のボインというのは、むっちりと盛り上がったボインのことである。最も美しい半球型、お碗型のオッパイだ。
　また、人相学とは違うが、タモリがボインちゃんはまぶたがふっくらしているなんてことを言っている。日本人にしか当てはまらない特徴だが、ボインちゃんはなるほどまぶたの肉付きがいい（神楽坂恵や綾波涼なんかがそう）。
　乳は、まぶたと鼻に出る。
　だから、同じタイプの乳や同じくらいのボリュームを誇っている女の子というのは、不思議とまぶたと鼻が似ることになる。
　松嶋まりなとよく似た鼻だちの爆乳っ子。プレイメイトのミリアム・ゴンザレスによく似た爆乳の女の子。
　夏目理緒と河合ヒナもそうだ。
　二人の顔だちは少々異なるけれども、まぶたと鼻においては、よく似ている（ただし、金甲の形は違っている。鼻頭の方が相似している）。
　巨乳顔というのはただ１つではなく、いくつかパターンがあるようだ。ある種のまぶたとある種の鼻の形の組み合わせと言おうか。そのパターンでなけれは巨乳ではない、というわけではないけれど、巨乳顔というのはあるらしい。

　才能は、発見の瞬間という観点から眺めるなら「知覚」である。
　「おれにはこんな才能があったんだ！」という、才能の知覚である。「あったんだ」というところにだけ注目するのなら、「存在」という言い方もできるだろう（それに人は惑わされてきた）。
　しかし、才能に対する自問から才能の顕在化までというプロセスの観点から眺めるなら、才能は「創出」である。
　才能というのは自己反省で辿り着くものではない。他人との差異のなかで知覚するものでもない。「他人より数学ができる」とか「他人より文章がうまい」というのは、才能ではないのだ。
　才能を悟るまでの自分は、自分に何ができるのかがわかっていなかった。それを自分は「才能がない」と形容していた。
　しかし、1996年2月某日、3人めか4人めのシナリオを書いていて、突然啓示が降りたのだ。「実はおれは恋愛ものが書けたんだ！　得意やったんや！」と。
　つまり、「自分に何ができるのかがわからない状態」から「自分に何ができるかわかった状態」に変わったのだった。
　恋愛ものが書ける人なんて、別に珍しくはない。ましてや自分レベルなど、ざらだ。でも、そういう他人との比較という意識、他人との差異というのはなかった。　
　知覚した瞬間というのは、むしろ、宗教的な悟りに近い心境だった。
他人との比較や他人との差異というものを一切突き抜けた地平線で突然悟ったもの、それが才能だったのだ。
　才能には「天賦の才能」「与えられた才能」というものもある。
　しかし、それにぶつかるのは才能を悟ってからもっと先のこと、もっと上のレベルに到達してからのことだ。
　ボウリングで言うなら、たとえばスコア200を叩き出すのは決して難しいことではない。アベレージ180も不可能ではないだろう。
　しかし、プロになったとして、そこから毎年タイトルを獲得するとかジャパンオープンで勝つというのは、次元の違うことなのだ。そこで初めて大きな壁、「天賦の才能」の違いというのに突き当たる。ほとんどの人は、そんな大きな壁のはるか手前で人生を終えるものなのだ。
　自分が問題にしているのは、そういう意味の才能ではない。もっと手前のレベルの才能である。　
　この「才能」については、よく「才能がある」「才能がない」という言い方をする。だから、才能というのは存在論のレベルだと勘違いされる。
　だが、そうではないのだ。才能は存在論の世界で生まれるものではなく、行動論の世界で生まれるものなのだ。それが、「創出」という意識的作用なのである。

　二次元のヒロインに、実在の人間のような「生きた」感覚があるのだろうか？
　たとえば、押井守は『アニメスタイル第２号』（美術出版社）の中でこんなことを言っている。

「要するに、欲望そのままを形にした様な画だよね、アニメのキャラクターというのは。（中略）。生身の人間がやると、余分なものがいっぱい付いてくるわけじゃない？　でも、アニメのキャラクターっていうのは、見たい人間の欲望の権化、１００％欲望の結晶だから」

　この中に、生身の人間のような実在性はあるのだろうか？　自分には虚構性しかないような気がしてくる。ちょうどポルノに登場するヒロインのように。
　ポルノのヒロインは、徹底して虚構的である。義理の息子にセックスを迫られて「ああ、どうしよう」とよろめく若妻が現実にいるとは、読み手も思ってはいないだろうし、書き手だって思っていないだろう。
　けれども、ポルノは生身の女性をヒロインとして虚構世界に対して必要としていないし、読者もまたそれを要求してはいない。ポルノ的満足のために虚構性が受け入れられている。
　同じように、アニメでもヒロインの虚構性が求められているのではなかろうか。
　ほとんど自分勝手な推論だけど、そんなことを思ったりしている。

　今次回作を手がけようとしているところなのだけれど、『資本論』を読み出している。
　つい最近筑摩書房から新訳で出された『マルクス・コレクション　資本論第１巻』である。
　別に自分は赤ではない。
　高校生の頃から右翼も左翼も嫌いだった人間である。
　それでも『資本論』を読むのは、今手がけようとしている作品に関係があるから……でもない。
　だって、おれは乳の人だもん。
　乳の人にマルクスはいらんでしょう──マルクス兄弟なら見てもおかしくはないかもしれないけど。
　赤でもないし作品とも無関係なのに読んでいるのは、21世紀を生きる物書きの一人として、最低読んどいた方がいいかな、とずっと思っていたから。
　現代思想はニーチェとマルクスの上に築かれているようなところがあって、現代思想を理解しようとすると必ずマルクスの用語にぶつかってしまう。
　2､3年前からずっと『資本論』だけは読もうと思っていたのだけど、訳が堅すぎてどうも好きになれない（乳が硬いのは大いに結構）。
　『希望格差社会』を読んでいたら、折り込みの案内に『資本論』の新訳が出ると書いてあったので、21日に喜び勇んで買ってきた、という次第。
　ひとまず第2章までは読んで、現在第3章を読んでいるところ。
　結論にたどりつくのにえらい長ったらしい論理展開と言い回しをするなあ、という印象だが、『資本論』を読んでいるんだ、という感覚がうれしくて仕方がない。
　読破したからといってどうなるわけでもないけれど、どうもならない読書もいいものだ。

　たとえば、ただの模倣によっては才能は創出されないのではないだろうか。
　誰かのフィクションに触れて「こんなものをやりたい」と奮い立つのはよい。しかし、そのままでは、結局なぞっているだけであり、なぞっているだけでは才能は創出されない。いくらピカソの作品を描いても贋作にしかならないけように──。
　自分ならどうするという地点、つまり自分にできることという地点から創造を始めた時、初めて創出されるものではなかろうか。

　長山靖生の『おたくの本懐』を読んでいたら、面白いことが書いてあった。
　曰く、才能は「探すものではなく、創るものではないのか」と。
　普通、才能というと見つけるものというイメージが強い。見つけるとなると、自分の内面を見つめ、内省を突き進めて掘り当てるというイメージになるが、個人的な感触としては違う気がする。
　自分の場合を例にとってみても、己の内部を心理的に掘り下げて探し出したという感じはない。自分にはどんな才能があるのだろうかとか、そもそも自分には才能があるのだろうかと内省に内省を重ねている時の方が、才能は発現しなかった。
　自分が初めて才能に気がついたのは、『バーチャルめもりある』というゲームを作った時だ。12人の女の子との恋愛ＡＶＧのシナリオを一人で書いている時、出来上がったシナリオを自分で読み直して「自分が実はこんなことが得意だったのだ」ということを、はっきりと悟ったのだ。それが才能を自覚した瞬間だった。まるで自分の中に稻妻が降りたような感じだった。
　才能は、内省によっては発見されなかった。むしろ、創造によってその姿を現した。
　きっかけはある１つのゲームのシナリオだったかもしれない。だが、才能が形を成すには、育成の時間が必要だった。作家になりたいと思ってから12年以上にわたって書いて書いて書いてきたことによって、ある方向性へと成長し、才能が創出されたのだ。
　才能は、原石としてあったのではなかった。芽生えてもいない種子ですらなかった。作家になりたいと思うことによって初めて種子が芽生えた。それからの創造の連続によって、ようやく才能が創出され、１つのゲームをきっかけに発芽したのだ。
　もちろん、これは自分個別の場合だ。でも、もしかすると他人にも当てはまるかもしれない。
　長山靖生は同じ著書のなかでこう言っている。
《原石としての「才能」に固執しすぎると、自分以外のものが愛せなくなってしまう。今日のフリーター、ひきこもり、ニートといった人々は、程度の差こそあれ、いずれもこの袋小路に陥っているのではないだろうか》
　自分にどんな才能があるのだろうと考えすぎると、袋小路にはまってしまう。そうではなくて、どんな才能を創りだしていってやろうと考える方が、自分を解放してくれるのかもしれない。

　今では、誰も読書を悪徳と感じることも罪悪視することもないだろう。
「本ばかり読んでいる人間は異常です。もっと普通に友達と遊んだり、役に立つ勉強をしたり、体を鍛えたりしないと、社会に出てやっていけませんよ」（『おたくの本懐』）なんて言う親は、今どき多くはあるまい。
　だが、永山靖生が『おたくの本懐』で書いているように「確かにちょっと前までは、本を読みすぎることは日本的小市民社会では充分に迫害の対象となる行為だった。アルトーに『罰せられざる悪徳』というタイトルの書物論があるが、読書はかつて罰せられる悪徳だった」のだ。
　読んだり見たりしていると異常とされたものは、最初は小説であり、その次が漫画だった。さらにアニメ（アニメを見ていると親は「漫画ばかり見て」と叱った）が来て、ゲームが来て、さらにオタク的フィクション全般へと広がった。
　健全なる精神と肉体を培うべきである（と誰かが思い込んでいる）時期に少年少女が自分の世界に引きこもって没頭するものは、代々親から罪悪視されるものなのである。それは戦後変わらない。もしかすると、近代社会が生まれてから不変なのかもしれない。
　だからといって没頭や耽溺の対象や行為そのものが無条件で正当化されるわけでもないしそれを目論んでいるわけでもないけれど、この流れを理解せず自分こそは正義と健全の守り神であると信じて少年少女が没頭するエンターテインメントを批判する者は、無知の粗忽者としか言いようがない。
　いまさら歴史意識を持ち出すのは馬鹿馬鹿しすぎるのだけれど、知りもしないくせにパブロフの犬みたいに反応して騒ぎ立てる連中は、人間とは思えないのだ。それはただ、言葉で吠える犬以下の存在である。犬の叫び声を読んで納得している連中は、次元としてはドッグフードを食べてよろこんでいるだけなのだ。

「ブルマーを出してください」
　
　初めてそのユーザー葉書を見た時、最初に受けた衝撃は戸惑いだった。その後、友人に見せて爆笑へと変わったけれども、今思えば浅はかな反応だった。そこにこそ、欲望の姿があったからである。
　男同士でオナニーについて話し合うというのは、あまりない。もちろん、自分の趣味嗜好について話すというのもめったにあることではない。せいぜい、巨乳派か美乳派か微乳派かを表明するくらいで、それ以上の性的嗜好には突っ込まないのが普通である。
　だから、26歳になるまで、他人の性癖、性的嗜好に直接触れるという経験はなかった。エロゲー業界に入ってユーザー葉書からユーザー情報を登録するという仕事を経験して、初めて生の欲望を目の当たりにしたのだ。
　自分にはブルマー嗜好はないので、正直面食らった。初対面の相手から「おれ、ブルマー好きなんです」と自己紹介代わりに告白されたようなものだった。
　あまりに直接的というか露骨だな～、と感じる人もいるかもしれない。
　でも、欲望というのはそういうものだと気がついたのは、ずいぶん後になってからだ。
　ブルマー出してください。
　クンニを入れてください。
　パイズリが少ないです。
　そういう欲望の意思表明の集積でエロゲーは出来上がっている。はなからエロを思考の外に置き、感動やストーリーを最重要視したエロゲーが増えているせいで勘違いしている人たちが増えているけれど、エロゲーというのは、風俗嬢と同じように男の欲望を相手に商売をやっている世界なのだ。自分の脳味噌でいかせようとしているか、あるいは自分の肉体でいかせようとしているかの違いがあるくらいで、エロゲーのシナリオライターも風俗嬢も、次元としては変わらないのである。ライトノベルの延長線上にあるような、世間に胸を張れる存在ではないのだ。
　それに気がついた時、「ブルマーを出してください」という言葉がひどくかわいらしく聞こえた。たぶん、その時初めて、自分はエロゲー業界の住人になったのだと思う。
　エロゲーの世界で働くということは、何も崇高なことではなく、野郎どもの下半身を一身に背負いこむということなのだから。

　別に珍しいことではない。昨日、ボケをやった。
　お風呂に入ろうとパンツいっちょになったのまではよかったのだが、何を考えたのだか、干してあった靴下を１足取り込んでしまったのだ。
　必要なものはバスタオルだったのに、なぜ？

　日常生活では、よくこういうボケがある。
　「お仕事だからいつも何か考えていらっしゃるんですね～」なんて言われるけれど、ボケをかます時は何も考えていなかったりする。
　何も考えていなくても、たいていの人は自分の中のロボット機能がうまく作動してくれる。だが、クリエイティブな活動に対してあまりにエネルギーを注ぎ過ぎると、日常生活で電源が足りなくなってロボットがうまく動かなくなってしまう。顔を洗おうとして洗顔クリームの代わりに塩入りの歯磨き粉を手にしたライターもいるそうだ。
　物書きは、日常生活においてボケるのである。

　もう7年以上前の話だ。
　エロゲーの世界で初めてディレクターという立場、プロデューサーという立場を手に入れた時、最初に感じたのは喜びではなかった。恐れや不安であった。
　そのポストに就いた時、「自分で企画したゲームが売れなかったら自分の責任なんだな」ということが実感として湧いてきて怖くなったのだ。
　売れるものを作れるのかという不安。
　売れなかったらという恐怖。
　ただ自分が歯車のようにシナリオを書いているだけの時や、権力のない下っぱとして働いている時はいい。売れなくても、それは企画した上司が悪いと言い逃れもできるし、いい企画をつくり出せない上司を蔭で批判していればいい。そこに責任問題はついてこない。
　けれども、自分がいざ上の立場に立って部下を抱えると、突然責任というものがのしかかってくる。
　自由とは、恐れである。人の上に立って自由な裁量権を手にするということは、自由と引き換えに責任も不安も恐怖もかぶるということなのだ。
　プロデューサーとディレクターという立場を手に入れた時、自分は今までの自分がいかに庇護されてきたか、マーケットに対して一人で向き合うという経験がなかったかを思い知らされたのだ。
　でも、不安に押し潰されることはなかった。ダメだったら自分で責任を取ればいいと腹を括ったのだ。
　マーケットへの無知から来る不安や恐怖から逃れるために売れ線に走るということもしなかったし、何かの真似しをするということもしなかった。セールス的には処女作は成功しなかったけれど、自分が意図したことは実現できた。
　自由と責任はワンセットである。白身と黄身は分離できるが、自由と責任は不可分である。それを目の前にした時、逃げてはいけないのだと思う。たぶん、腹を括った者の勝ちなのだ。覚悟を決めた時、恐らく人は自分の本文に立ち返るのだと思う。
　プロデュースという作業は、不安な恐怖のなかで行うものではない。覚悟の領域で行うものである。「売れなかったら……」なんて不安のなかでやってもいいものはできない。「売れなかったら自分で責任を取ればいい」という覚悟を決めた上で、初めてプロデュースというのはできるものなのだと思う。

　シナリオも書いてディレクションもしてスクリプトも組んでいると、三重の三段階で疲れがやってくる。
　１つ目は、シナリオを書きあげた時。
　数カ月の間に、一人で1.3MB（原稿用紙2000枚、文庫本8冊近く）も書くのだから、〆切が終われば当然疲労が蓄積する。
　２つ目は、音声収録だ。
　いまだ経験せざる者には、いつか覗きたい夢の夢であるけれど、シナリオライターにとっては消耗に次ぐ消耗である。声優さんが喘いでいる時に、「エロいな～」と聞きほれているわけにはいかんのだ。台本を注意深く見ながら、声優さんの演技にも気を配らねばならない。視覚と聴覚に対して同時に凄まじい集中力を発揮せねばならんわけで、それが１日最低6時間は続くわけだから、当然疲労が蓄積する。
　３つ目は、マスターアップである。
　スクリプトも担当している場合には、マスターアップでもデバッグレポートを読んでバグを潰すという役割を負うことになる。企画当初から携わってきた疲れもさることながら、毎日バグを潰しているのに、なかなかバグが減らない。一向にバグが減る気配がない。その連続に、これまた蓄積が疲労することになる。
　でも、そういう携わり方ができるというのは、何よりの幸せである。クライアントが用意したキャラやプロットにしたがって書くテキストライターに比べれば、なんと幸多きことか。裁量権というのは、なかなか得られないものなのだ。それをもらえるというのは、作り手として何よりの幸せなのである。

　自分は例外者だろうか？
　普通か変わっているかといえば変わっているだろうから、一般的というよりは特殊だろう。
　中学から社会人２年生までは、自分はアウトサイダーだと思っていた。しかし、アウトサイダーが例外者として生まれついた者かというと、個人的には疑問が残る。蓮見重彦が『凡庸な芸術家の肖像』でいう例外者かといえば、疑わしい。
　ポルノを書いているということは、例外者なのだろうか。しかし、例外者でなくともものを書けるというのが今の時代だ。例外者でなければ書けぬという「特権」は150年以上前に失われている。ヴィクトル・ユゴーの時代はすでに終わっているのだ。
　では、オッパイ星人としてはどうだ？　あなた以上のオッパイ星人を見たことがない、と知人に言われたことがある。しかし、自分より凄い人たちがいるのは、FOBの掲示板を見ればわかることだ。自分は彼らの脚元にしか位置しない。
　例外者というのは、「一般－特殊」という軸では存在しないものなのかもしれない。「普遍－固有」という軸にあって、その固有性が確固たる者のみがまとえる衣装なのかもしれない。

　例外者として生まれたわけではないのに自分は例外者だと勘違いし、偉大な文学者たちと同じように自分にも社会や同時代に対して警告を発すべき義務があると錯覚し、他の誰もが言いそうなことを叫んで自分は特権者だと満足する精神──、それこそが「凡庸さ」である。
　1850年以降近代社会に蔓延することになり、今でもつづいている「凡庸さ」について、蓮實重彦はこんなことを言っている（『凡庸な芸術家の肖像』）。
　自分こそは社会に鉄槌を喰らわせ、正義を行う強きジャーナリストであると自負しフィギュアマニアを叩くコメンテーターも、恐らくその一人だろう。
　だが、それは彼に限ったことではない。正義を自称する凡庸は、現代に遍在しているのだから。

　2004年12月2日。
　16時半、神保町で編集さんとお会いした。
　二見文庫から出す学園巨乳小説『タカビーな爆乳彼女のつくりかた』についての打ち合わせである。喫茶店に入って、早速お話。
　プロットは提出できなかった。さすがに心苦しい。しかし、この心苦しさから逃げてはならんのだ。マゾの快感を……ウヒヒ。
　発売時期についてのお話を聞く。12月で原稿をあげられれば、2月発売。1月なら3月というお話をいただく。もちろん目指すのは2月発売だが、恐らくもう少し遅くなってしまうだろう。3月くらいか。
　挿絵についてもお話をいただく。自分のなかで決まっている人は……あの方。
　その後、タイトルについてお話をする。
　英語のタイトルだ（1カ月後、違うタイトルの方がいいなと考え直すことになる。さらにそれに単語を追加して、『タカビーな爆乳彼女のつくりかた』に決定）。
　帰りに日本橋三越10Fでイタリアレストランに入った。
　味は普通だけれど、店の雰囲気はよい。おかげでストレスが飛んだ──樋口一葉と野口英世とともに……。

　page3ガールといえば、今ならミシェル・マーシュだろう。けれども、自分はKeelyに注目している。
　18才、Bromley出身。
　顔つきはちょっとミシェルのような清楚＆コケティッシュという感じではないけれど、そのプリンと張り出した乳がいい。最低でもＦカップは下らない張りのある乳は、美しい半球型で、左右バランスが取れていて、実に美しいのだ。お上品にツンと突き出しているのも、横から見てボリューム（高さ）があるのも、これまたすばらしい。KerriやNeval、Ruth、Danielleと比べても、その乳房の美しさ、隆起の高さは並びようがない。
　そのうちブレイクするんじゃないか、と期待している。お薦めの子である。なので、彼女の画像を持っている人は、ギブ・ミー・チョコレート。

「どんな小説を書きたいんですか」

　『発見』（幻冬舎文庫）の中で、清水義範氏が面白いことを書いていた。
　30才のアマチュア時代のことだ。
「どんな小説を書きたいんですか」
　編集者に聞かれて返答に詰まったエピソードが、そこには綴られている。

《その問いに答えられないことに自分でも驚いた。こういうものが書きたいんです、というのが頭の中にないのだ》
《要するに、まだ自分がわかっていなかったのである。自分にはこれができる、というのを掴んでなくて、ただただ、書けるはずだ、とばかり思っていた》
《まず最初に小説家になりたいと思ってしまった人間であるため、何を書きたいのか、自分で掴んでいなかった。それが、なかなか夢のかなわなかった原因なのだ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（『発見』、幻冬舎文庫）

　作家志望のアマチュアが陥る過ち。
　10年以上も続く長い長いアマチュア時代を経験した人なら、余計によくわかる。自分も、同じ陥穽に10年以上はまりつづけていただけに、氏の文章が身に沁みた。
　最初に小説を書いたのは小学５年生の時。
　それから漫画家になろうとありがちな夢を懐いたけれど、中学２年の時にロマン主義時代の小説を読んで、作家になるぞと決心してしまった。以来、とにかく作家になるんだとばかりに20回近く投稿をくり返した。
　でも、新人賞を獲ることはできなかった。４次予選まで進んだのが最高で、あとは落選のゴミ。
　毎週出されるゴミのごとく、よく出るなあとばかりに落選がくり返される。
　なぜなのか、本当はわかっていたはずだった。
　都落ちして北大に入学した頃のことだ。最初に参加した先輩たちとの飲み会で、８年生の先輩に聞かれたことがある。

「鏡は、なんで作家になりたいんだ」

　答えようとして返答に窮した。
　なぜ？
　なんでなりたいんだ？
　１４の時に思い立って、なぜ二十歳になっても、相変わらず作家になりたいと思っているんだろう。
　ゲーテ？　それは単なるきっかけだ。きっかけは理由ではない。
　先輩は、さらに畳みかけてきた。

「鏡は、何を書きたいんだ」

　狼狽した。
　中身のない自分を言い当てられた焦りがあった。慌てて自分の中を検索してみたが、わかったのは自分が空白ということだった。
　書きたいものなんて、一かけらもなかった。
　ただ、作家になりたいという気分しか、二十歳の自分にはなかったのだ。

「何か追い求めるものがなければ、作家にはなれないと思う」

　先輩は、止めを刺すように言い放った。
　脳震盪を起こしたような気分だった。
　作家になると決めているくせに書きたいものは何もないという、自己の矛盾を思い知らされたのだ。しかも、それこそが自分がアマチュアでいる理由だった。
　はじめから作家になりたいと思ってしまったために、何を書きたいのかという部分が置き去りにされてしまったのだ。
　でも、自分は書きたいものを見つけられなかった。いな、真剣に見つけようとはしなかった。
　「書きたいこと」から逃げて「書くこと」だけに狂奔した。
　多分、怖かったのだと思う。
　書きたいものを見つけようとすると、自分には書きたいものがないという事実と対面しなければならない。
　自分は何を書きたいのだろう。
　書きたいことなんて、何もないじゃないか。
　ないのに、なぜ小説を書くんだ？　なぜ作家になりたいと思うんだ？
　ただのまねっこか、功名心じゃないか。
　「自分には書くものなんて存在しない」という真実を認めることは、二十歳の自分には、自分を完全に否定するように思えたのだ。
　結果は、18戦18敗。
　予選通過はわずか２回。
　「書きたいこと」から遠ざかりつづけた、当然の結果だった。
　転機が訪れたのは、書きたいものがないことを受け入れてからだ。普通の小説の世界では、自分が訴えたいこと、どうしても書きたいことはない。でも、ポルノなら、叫ばずにいられないことがある。
　そう気づいて、初めてアマチュアの枠が外れた。

　高校生の時、『りぼん』という少女マンガ誌を読んでいて、愕然としたことがある。
　それは、奨励賞を獲った小学校６年生の女の子の、短いインタビューだった。
　どんなお話を書きたいですか？
　そう問われて、１１歳の女の子はこう答えていた。

　──みんなが読んで心があったかくなるようなお話を書きたいです。

　作家になりたいと思う人。クリエイターになりたい人。
　あなたはどうだろうか。
　小学６年生の女の子が到達していた地点に、達しているだろうか。

　2004年12月1日。
　7時半起床。
　11月のうちに１本書いて、12月で１本書いて、来年からはゲームじゃ！　と意気込んでいたが、いまだに書けていない。トホホ。
　8時20分、　二見文庫から出す学園巨乳ポルノを開始。少し冒頭を直して、第1章「2」に入る。
　とにかく、仕事に集中することにする。
　恐らくシナリオと同じく、午前中にどんな仕事ができるかで小説も決まるのだ。もしかすると、起きてすぐに仕事を始められるかどうかで決まっているのかもしれない（後にこれらのことは間違いだったと判明）。
　9時半まで執筆。
　電池切れ。１時間ぐらいしかもたぬか。これをどれだけ繰り返せるか。
　村上龍の対談集『存在の耐えがたきサルサ』を読む。

「日本では共同体から与えられる喜びが非常に強い。（中略）共同体の中に入って雰囲気を愉しむ、共同体から生きる喜びを保証して貰うということが、この国ほど徹底されている国はない」

　自分もまたその一人であったか。
　外出。
　皇居散歩。ポジティブなエネルギーが身体に飛び込んでくる。
　神保町へ。資料蒐集。のんびり散策。さぼうるで、さぼうるサンドとコーヒーを頼む。なぜかしっくり来る店内。
　19時帰宅。
　小説再開。いじくっていて、時系列を追う形で書いていてもつまらんのではないかという気がする。♀に話してみたら、やはり反応が悪い。実はもう付き合っていることにして、回想シーンへ飛ぶことにする（しかし、後にこれも不採用）。

　このブログの書き手である鏡裕之は、オタクであろうか。
　書き手自身は、オタクだと思っている──世間的に見れば。
　大学を卒業して一部上々企業に入った時、最初についたあだ名は「タッキー」だった。ジャニーズ出身のあのタッキーではない。オタク⇒オタッキー⇒タッキーという短縮形である。そもそも、あだ名をつけられたのは、彼がデビューする前だ。
　当時、自分はただアニメのＬＤをばかすか集めているだけで、オタクじゃなくてコレクターだと思っていた。岡田斗司夫だったら、おまえは全然ディープでもないし、オタクでもない、ただのオッパイ星人だということになっていただろうが、それでもやはり、世間的に見ればオタクだった。当時自分を知る人で自分がオタクではなかったと言い張る人は一人もいまい。
　アニメ誌を買っていたのは、89年まで。90年からは立ち読みすらしたことがない。
　93年までは、自分はコミケに参加したことがなかった。存在も知らなかった。94年までエロゲーもプレイしたことがなかった。フィギュアを買ったのは、2004年が初めてだ。
　だが、93年以前も、90年以前も、自分は世間的に見ればオタクだった。オタクの自分史は84年まで遡ることができる。
　コミケに行ったから世間的に見てオタクになるわけでもないし、フィギュアを持っているから世間的に見てオタクというわけでもない。無論、アニメ誌を買っているからオタクというわけでもない。オタクの境界線は別のところ──言説レベルにある。
　世間から見てオタクかどうか。
　それは、フィクションから引用するかしないかである。
　日常会話において、アニメやコミックやゲームの登場人物の台詞を引用してしゃべること。それが世間的に見てオタクである条件である。
　世間がオタクと見ない人は、いくらアニメが好き、コミックが好き、ゲームが好きといっても、その台詞を引用するほどは腰を入れて見ていない。純粋に愉しんでいるだけである。
　だが、世間がオタクと見なす人は、日常会話でフィクションの台詞や有名な状況から引用を行う。
　たとえば、

「ドリンク剤飲んだらめちゃめちゃ調子よかった。もう赤い彗星」
「３倍仕事したってか？」（※『機動戦士ガンダム』に登場する、赤い彗星という名の戦闘メカは、他の戦闘メカの３倍のスピードがあった）

　あるいは、

「あちょっ!!」（と驚かす）
「うわぁ！　びびったやないか！　こぼしたらどないすんねん」
「戦いはスマートに行うものだよ」（※『機動戦士ガンダム』のシャアの台詞）

　オタクという言葉がマイナス性を帯びるようになってから、オタクと分類されることを嫌う人間は増えた。けれども、どんなに否定しようとも、フィクションからの引用を行う者は、世間から見てオタクにラベリングされるのだ。なぜなら、普通の人はただ愉しむだけであり、そこまではまらないし、引用を行うほどディープにつからないからである。
　オタクは言葉に顕れる。
　アニメやコミック、ゲームから引用を行う者はオタクである。どんなに否定しようと、自分の言説がそうである限りにおいて、世間からはオタクとラベリングされる。それは宿命でも差別でもない。なぜなら、言葉にはその人の本質が顕れるからだ。
　自分はオタクであることを否定するつもりもないし、そこから逃避する気もない。なぜなら、自分はオタクであり、それが自分だからだ。開き直りではなく、それが現実、それが真実なのである。

　サンケイ新聞の記事によると、北京原人は中国人の祖先ではないらしい。
　現在の中国人、モンゴル人、日本人の男性の染色体と生粋のアフリカ人男性の染色体は同じものだそうで、「約６万年前にアフリカから中国南部に移住、その後北部へ分布していった」らしい。
　50～20万年前に中国にいた北京原人はどうやら死滅してしまったようだ。彼らが絶滅した後にアフリカから別の人類が移住してきたということらしい。
　それじゃあ、これから中国人を罵倒する時に「黙れ、北京原人」って必殺の文句が使えないではないか、と余計なことを思ったりするのだけれど、１つ疑問が生じる。
　アフリカ人と同じならば、なぜ日本人は瞬発力が弱いのだろう。アジア人の祖先たちはアフリカから移住してきた時、その褐色の肌はすでに失われていたのだろうか。移住の過程で、あの高い身体能力は失われてしまったのだろうか。
　少し謎である。

　2004年11月25日。
　8時起床。
　ツンデレ──他人がいるとツンツンしてるくせに、誰もいないとデレデレする──の情報を集める。昔部下で今は結婚しちゃった江魅ちゃん曰く、２ちゃんねるから生まれた言葉だそうだ。
　魔里亜をツンデレにするのもいいなあ、と少しプロットを切ってみる。
　うまくいきそうな、いかないような微妙な感覚。
　魔里亜の名前を変更するか？　という気になる。別の名前で考えてみるか……？

　2004年11月21日。
　布団の中で、30分ほどポルノ小説の案を練る。
　8時起床。
　9時前後に荷物が来るというので、わたわたと準備。本棚を２つ運び出し、テーブルを撤去。
　ＣＤ＆ビデオラック１台到着。
　昨日は失敗したのではないかとうんうん悩んだけれど、正解。凄くおしゃれ＆かっこいい。
　10時40分、ＣＤとビデオを片づけた頃、210センチ高85センチ幅の本棚が１台到着。
　白のカラー選択は大正解。
　いったん、栄養補給をして本棚を埋める。埋めてみるとこれが素晴らしくかっこいい。ぴしっと引き締まる。部屋も明るくなった。大正解。
　15時半、amazon.comから荷物。
　神楽坂恵のＤＶＤ２枚。今日届いたばかりのＣＤラックにしまう。
　さらにリビングのロッカーを整理。
　21時までかかって、ようやくリビングの床が見える。なんとかロッカーに細々としたものを押し込んで、寝床を敷く。

　2004年11月20日。
　14時半、♀が来てくれる。
　栄養補給の準備だけして、模様替え開始。本棚４つの荷物を運び出し、移動。
　だいたい次の仕事をする前に本棚を移動したくなる。
　20時、やっと夕食。
　ＴＲＩＸのテーブルで夕食。ローソンまで遠征して買い出してきたお弁当。
　『ターミネーター２』を見る。
　二見文庫から出すことになっている小説のヒロインについて、考える。
　名前は、魔里亜ということで決まっている。
　ベースは数年前に書いたもので、すでにある。その時から、高飛車ということになっていた。
　でも、高飛車なヒロインにする必要があるのだろうか？
　青春官能ものを描くという第一目標からすると、別に確固たる理由は存在しないように思えてくる。ただ自分の好みというだけだ。
　エロゲーを作る時、自分は95％の理由が存在する。しかし、今はどうだ？　5％しかないのではないのか？
　考えてもきりがないので、23時すぎ就寝。

　2004年11月8日。
　6時半起床。
　前日のマスターアップですべて放出してしまったのか、やる気なし。
　昼間、秋葉原へ。
　知人と鳥よしで特上親子丼。2001～2002年、自分の顔が死んでいたという話を聞く。あの頃はしんどかったのだなとノスタルジーモード。
　その後、歩いて神保町へ。
　書泉ブックマート、三省堂、グランデ、芳賀書店と渡り歩く。最後にタトルを覗いて、さぼうるでコーヒーを飮みながら本を1冊読み切る。『ブラバスター』のヒントになりそうだ。
　19時帰宅。
　21時頃、大学時代の友人から電話。
　23時就寝。

　再び体制にすり寄るコメンテーター、大谷昭宏について。
　今年2005年1月4日掲載の日刊スポーツ・大阪エリア版で、《趣味と犯罪の境界　社会が決めるべき》と題して大谷昭宏が萌えとフィギュアマニアを話題にしている。《「フィギュアマニア」に改めて思う》という副題からして、痛さが増していることは言うまでもない。
　決して長くはない、しかし短くもないコラムの中で、大谷昭宏は、奈良女児誘拐殺人事件は、異常な少女性愛者による事件であると言う。その温床になったのが、フィギュア愛好や萌えという趣味だ。個人の趣味的自由といっても、それが元で犯罪が起きるのならば、趣味に対して社会的制限を加えねばなるまい、という話だ。
　多くの人は、成人女性への性愛が健全であり、少女性愛という性的嗜好はおぞましいというイメージを懐いている。生身の女の子への執着が健全であり、二次元のヒロインやフィギュアへの執着（萌えやフィギュア愛好）はおぞましいというイメージを懐いている。おぞましい趣味やおぞましい性的嗜好は、幼女誘拐殺害というおぞましい事件とイメージ的に結びつけやすい。しかし、結びつきやすいからといって理由になるわけではない。複雑な現代社会では、安易な結びつきや表層的な連想は、理由にならないことが多い。性的快楽殺人はその顕著たるものだ。
　大谷昭宏は三重の勘違いをしているように思える。
　１つ目は、奈良女児誘拐殺人事件を、性的快楽殺人としてではなく、「幼女」殺人として捉えてしまっていること。「幼女」という部分に過剰反応して、全体を見誤っている。
　『ＦＢＩ審理分析官』によれば、性的快楽殺人には、秩序型と無秩序型、そして混合型の３種類があるという。
　幼女なら誰でもよかったという行動は、無秩序型を思わせる。すぐに殺害したというのもそうだ。秩序型ならすぐには殺しはしない。
　しかし、車を運転したという事実やその後捜査の攪乱を試みた行動は、秩序型を思わせる。分類で言うと、小林薫は混合型の性的快楽殺人者ということになるだろうが、そのような分類はさしあたって重要ではない。重要なのは、彼がただ少女性愛者だったということではなく、性的快楽殺人者としての条件を備えているということだ。
　２つ目は、異常な欲望や異常な飢餓や異常な思想が犯罪に直結しているという古い考えに囚われてしまっていること。そういうわかりやすい犯罪があったのは30年前のことだ。
「自分は貧乏だった。金が欲しくて欲しくて仕方がなかった。でも、手に入らない。だから、どこの銀行でもいいから強盗に入った」。
　30年前ならそうだったかもしれない。しかし、それは今の時代には当てはまらない。もし奈良女児誘拐殺人事件の原因が少女性愛だったとすれば、
「自分は幼女が好きだった。幼女とセックスしたかった。したくてしたくて仕方がなかった。でも、手に入らない。だから、どの幼女でもいいから誘拐した」
　ということになるが、そんな単純な理由で説明できる問題だろうか？
　もしそうなら、なぜ、犯人は誘拐してすぐ殺害せねばならなかったのか。なぜ、画像を母親に送りつけたのか。
　「幼女とのセックスを妄想してオナニーこきまくっているうちに、ついに暴走して犯罪しちゃいました」なんて話では説明がつかないことぐらい、バカでもわかる。「異常な少女性愛」は何の説明にもなっていないし、何の理由にもなっていない。
　性的快楽殺人の原因は、少女性愛ではない。幼女を殺害したから、異常な少女性愛が原因と片づけるのは、パブロフの実験犬の他には大谷昭宏ぐらいなものだ。
　３つ目の勘違いは、萌えやフィギュア愛好といった趣味嗜好を犯罪と結びつけていることである。萌えのメンタリティやフィギュア愛好のメンタリティは、性的快楽殺人者のメンタリティと相関性がない。「フィギュアにはまりすぎて幼女を襲っちゃいました」「二次元のヒロインに萌えすぎて、幼女が欲しくなっちゃいました」なんて説明は安っぽいドラマの筋書きにもなりはしない。
　『ＦＢＩ心理分析官』によれば、性的快楽殺人者のメンタリティはいくつかの段階を経て長期間にわたって形成されるという。
　6才までの母性愛の不足、12才までの父性愛の不足といった家庭的要因が重なり、ネガティブなエネルギーが備蓄されると、ネガティブなエネルギーは内側へ向かい、残虐な性的妄想が始まる。10年を経るうちに妄想はどんどんエスカレートしていき、性的快楽殺人者はイメージの世界で、かなりリアルにその妄想をくり返すことになる。この段階で、離婚や別離、レイオフといったストレスを伴う事件が発生すると、ついにイメージの境界を越える。イメージの世界を現実の世界にただ置き換えるだけで、性的快楽殺人が発生することになる。
　「少女性愛」という性的嗜好や「萌え」「フィギュア愛好」といった趣味嗜好はこの性的快楽殺人発生のプロセスに積極的に関わってはいない。最初に少女性愛や萌えやフィギュア愛好があって、そのとんでもない発展形として性的快楽殺人があるわけではないのだ。実際にアメリカで起きている性的快楽殺人事件でも、被害者はばらばらだ。12、3才の少年。額の真ん中で前髪を分けた金髪女性。性別年齢にこだわらない無差別殺人もある。
　大谷昭宏が少女性愛と萌えとフィギュアにこだわるのは、それが彼にとっておぞましいからだろう。萌えやフィギュアを犯罪因子に結びつけようというのは、ただおぞましさ、嫌悪感によるものであって、クールな分析によるものとは思えない。もし少女性愛者、すなわち幼女マニアが犯罪と密接につながっているのなら、ＲＱマニアは？　看護婦マニアは？　ＯＬマニアは？　人妻マニアは？　彼らも危険人物なのか？　彼らの趣味も危険で取り締まるべきものなのか？
　ある特定の性的嗜好が犯罪の原因となる、というのは前世紀の時代後れの考え方だ。生まれる時代を100年、間違えている。
　萌えは、健全を自覚する大谷昭宏からすればおぞましいものだろう。血の通わない二次元のヒロインに没入する姿には、気色悪さを覚えているのかもしれない。フィギュアマニアに対しても同様だろう。そういう子たちはコミュニケーション的な円滑さを有しているわけでもなく尖った言語表現をする可能性が高いだろうから、取材した彼がさらにおぞましさや嫌悪感を感じたとしても不思議ではない。
　だが、「おぞましい」からといって即、社会的に害悪というわけではない。「おぞましい」からといって犯罪の温床になるわけでもない。「おぞましい」からといって批判を加え社会的制限を口にするようでは、権力体制の飼い犬だ（ジャーナリストは、不当な社会規制を行うきっかけを権力側に与えないでほしい）。
　数十年前に、推理小説が流行るから犯罪が増加した、という謬説が流れたことがあった。今回のことも、次元としては同じである。性的快楽殺人と萌え、性的快楽殺人と少女性愛、性的快楽殺人とフィギュア愛好に因果関係などありゃしないのだ。
　それでもくり返し大谷昭宏が「萌え」と「フィギュア愛好」を叩きつづけるのは、それが大谷昭宏にとっておぞましくてならないからであり、つまり大谷昭宏が「萌え」という現象、「フィギュア愛好」という現象を気に入らないからであり、両者があまりにもおぞましくて叩かずにはいられないからなのだ。自分が個人的に気に入らないから、おぞましくてならないから、新聞という公共の場を利用して叩いているだけなのである。こんなのは言説的オナニーにでしかない。浮かばれないのは女の子の方だ。
　叩きたいのなら、温泉でも行ってモグラ叩きをしてくればよろしい。赤提灯の下で「てやんでばろちきしょ」とくだを巻いていればよろしい。
　危窮の時に人の器が見えるとカルロス・ゴーンは言った。
　大谷昭宏はいかに？
　還暦に到達しようという年長者が、オタクから質問状が来たなんてスポーツ紙に書くのは果たしてどうだろうか。叩かれ弱いと言われても、大人げないと言われても仕方あるまい。
　沈黙は金、雄弁は銀と昔の人は言った。しかし、沈黙できるのは器ある人間だけである。大谷昭宏にそれを期待するのは酷というものだろう。

　いまさらながらの話である。
　大谷昭宏という通俗的な「ジャーナリスト」が、2004年11月23日掲載の日刊スポーツ・大阪エリア版で《対話も感情もない「萌え」のむなしさ》というコラムを書いている。昨年ブログを賑わせた話なので、知っている人もいるだろう。
　大谷昭宏が触れているのは、奈良女児誘拐殺人事件のことだ。
　ジャーナリスト氏は、生身の女ではなくパソコンゲームのヒロインとだけ仮想恋愛する「萌え」という現象を取り上げ、犯人は被害女児を、生身の女の子としてではなくフィギュアとして扱った、いわばフィギュア化したのだと断言している。そして、生身の人間と接触しようとする人間的な対話もなく、無機質さばかりしか感じられないと嘆いている。
　世間を賑わす凶悪犯罪が起きた時、論者自身が不愉快と思う流行現象をやり玉に挙げて批判するという、実に共同体的な、つまり非常に凡庸な手法があるが、大谷昭宏は老齢にしてそれを見事にやってのけたわけだ。中学生の作文としてはなかなかよく出来ている。
　萌えが決してパソコンゲームのヒロインにのみ向けられたものではなく、アニメもコミックも対象にしているという定義上の問題や、フィギュアに夢中な人間は恐らく生の人間に興味を持つまいなどという問題は、わざわざ口にする必要もあるまい。ジャーナリストらしからぬ不勉強ぶりも、指摘する意味もあるまい。
　性的な快楽が絡んだ殺人には、残忍な妄想がある。生身であれ二次元であれ、イメージの中で好きな女の子にエッチなことをするというのが普通の妄想だとすれば、女の子を殴り、命乞いをさせ、切り刻み、切断するというのが快楽殺人者の妄想である。
　そのどこかに、オタク的世界とのつながりがあるだろうか？
　性的快楽殺人者ならフィギュアを切り刻み、切断するかもしれないが、フィギュア愛好者は決してそのようなことはすまい。フィギュア愛好者なら、傷ひとつつけまいと気をつけるだろうし、埃からもフィギュアを守ろうとするだろう。
　もしオタク生活をしているから性犯罪者になったのだとすれば、女の子たちを輪姦したサッカー部員たちは、サッカーをしていたからレイプ犯になったのだろうか。
　そうではあるまい。
　オタク的な趣味や妄想は、性的快楽殺人とは無関係なものである。ただ、それを個人個人が気持ちいいと感じるか好ましいと感じるかの違いだけだ。
　あれだけ話題になった『ＦＢＩ心理分析官』を読んでいれば、こんなことぐらい気づいてもよさそうなものだが、犯人のプロファイリングを試みているわりには、ジャーナリスト氏は知らなかったらしい。だが、知っていたとしても、果たして指摘したかどうか。
　大谷昭宏は、徹底して通俗的である。そして、徹底して「ジャーナリスト」である。つまり、共同体の凡庸な代弁者であるということだ。
　ブラウン管に出ているということ、そこでコメンテーターを務めているということは、共同体の外ではなく、共同体内部に位置しているということである。
　真実はたいてい共同体の外側にある。だが、ジャーナリスト氏は共同体の内側にいる。つまり、真実の側にはいないわけだ。
　ジャーナリスト氏は、真実の味方ではない。「正義＝共同体」の味方である。それはすなわち、ジャーナリスト氏が共同体内部に取り込まれているということ、フィギュアに引き寄せて言えば、共同体の傀儡であるということを意味する。（共同体的な見解を求められるブラウン管の世界では、批判的精神は苦情とともに排斥される）。
　幼児を対象にした凶悪事件が起きた時、主婦層に代表される世間一般の人が懐くイメージは、ロリコンであり、その延長線にあると大衆が思い込んでいるパソコンゲームやフィギュアだろう。理解できないもの、理解したくない不快なものは、共同体にとって批判されるべき対象なのだ。共同体とは、パブリックエネミーを生贄として安定の円環を閉じつづける存在だからである。
　そして、共同体の期待通り、大谷昭宏は共同体が懐く不安を中学生の作文にしてみせた──期待通りの通俗的な、凡庸な方法で。（大学生の作文にすると、論理的になるが大勢が理解しづらくなる）。だからこそ大谷昭宏は「ジャーナリスト」なのであり、だからこそブラウン管の世界にいるのであり、だからこそ通俗的コメンテーターとして諧謔と批判の対象に値するのである。理解できないものが批判されるように、ブラウン管の中の住人もまた、生身のないキャラクターとして諧謔と批判の対象となるのだ。
　「報道する側も無機質なフィギュアになったようなむなしさばかりが襲ってくる」と大谷昭宏は締めくくっている。むなしさに襲われているわりには元気だったようで、オタク側からの質問状に逆ギレしてしまったらしい。まだまだブラウン管の人として修行が足りんようである。ぶざまついでに、ご自分が、誰も購入したいと思わない老人のフィギュアとなって朽ち果ててはいかがなものか。あの世で黒田清氏に詫びるのもよかろう。