「ブルマーを出してください」
　
　初めてそのユーザー葉書を見た時、最初に受けた衝撃は戸惑いだった。その後、友人に見せて爆笑へと変わったけれども、今思えば浅はかな反応だった。そこにこそ、欲望の姿があったからである。
　男同士でオナニーについて話し合うというのは、あまりない。もちろん、自分の趣味嗜好について話すというのもめったにあることではない。せいぜい、巨乳派か美乳派か微乳派かを表明するくらいで、それ以上の性的嗜好には突っ込まないのが普通である。
　だから、26歳になるまで、他人の性癖、性的嗜好に直接触れるという経験はなかった。エロゲー業界に入ってユーザー葉書からユーザー情報を登録するという仕事を経験して、初めて生の欲望を目の当たりにしたのだ。
　自分にはブルマー嗜好はないので、正直面食らった。初対面の相手から「おれ、ブルマー好きなんです」と自己紹介代わりに告白されたようなものだった。
　あまりに直接的というか露骨だな～、と感じる人もいるかもしれない。
　でも、欲望というのはそういうものだと気がついたのは、ずいぶん後になってからだ。
　ブルマー出してください。
　クンニを入れてください。
　パイズリが少ないです。
　そういう欲望の意思表明の集積でエロゲーは出来上がっている。はなからエロを思考の外に置き、感動やストーリーを最重要視したエロゲーが増えているせいで勘違いしている人たちが増えているけれど、エロゲーというのは、風俗嬢と同じように男の欲望を相手に商売をやっている世界なのだ。自分の脳味噌でいかせようとしているか、あるいは自分の肉体でいかせようとしているかの違いがあるくらいで、エロゲーのシナリオライターも風俗嬢も、次元としては変わらないのである。ライトノベルの延長線上にあるような、世間に胸を張れる存在ではないのだ。
　それに気がついた時、「ブルマーを出してください」という言葉がひどくかわいらしく聞こえた。たぶん、その時初めて、自分はエロゲー業界の住人になったのだと思う。
　エロゲーの世界で働くということは、何も崇高なことではなく、野郎どもの下半身を一身に背負いこむということなのだから。