もう7年以上前の話だ。
　エロゲーの世界で初めてディレクターという立場、プロデューサーという立場を手に入れた時、最初に感じたのは喜びではなかった。恐れや不安であった。
　そのポストに就いた時、「自分で企画したゲームが売れなかったら自分の責任なんだな」ということが実感として湧いてきて怖くなったのだ。
　売れるものを作れるのかという不安。
　売れなかったらという恐怖。
　ただ自分が歯車のようにシナリオを書いているだけの時や、権力のない下っぱとして働いている時はいい。売れなくても、それは企画した上司が悪いと言い逃れもできるし、いい企画をつくり出せない上司を蔭で批判していればいい。そこに責任問題はついてこない。
　けれども、自分がいざ上の立場に立って部下を抱えると、突然責任というものがのしかかってくる。
　自由とは、恐れである。人の上に立って自由な裁量権を手にするということは、自由と引き換えに責任も不安も恐怖もかぶるということなのだ。
　プロデューサーとディレクターという立場を手に入れた時、自分は今までの自分がいかに庇護されてきたか、マーケットに対して一人で向き合うという経験がなかったかを思い知らされたのだ。
　でも、不安に押し潰されることはなかった。ダメだったら自分で責任を取ればいいと腹を括ったのだ。
　マーケットへの無知から来る不安や恐怖から逃れるために売れ線に走るということもしなかったし、何かの真似しをするということもしなかった。セールス的には処女作は成功しなかったけれど、自分が意図したことは実現できた。
　自由と責任はワンセットである。白身と黄身は分離できるが、自由と責任は不可分である。それを目の前にした時、逃げてはいけないのだと思う。たぶん、腹を括った者の勝ちなのだ。覚悟を決めた時、恐らく人は自分の本文に立ち返るのだと思う。
　プロデュースという作業は、不安な恐怖のなかで行うものではない。覚悟の領域で行うものである。「売れなかったら……」なんて不安のなかでやってもいいものはできない。「売れなかったら自分で責任を取ればいい」という覚悟を決めた上で、初めてプロデュースというのはできるものなのだと思う。