もっと仕事が速くならないかな、もっと速く仕事を片づけられないかな……と唸っていた時に出会った一冊。
　記されているのは、一見当たり前のことのように思える。「すぐやる！」だって？　できりゃ世話ねえよ、と思いたくなるかもしれない。
　だが、いかに多くの人が「すぐやる」ことをせずに、後回しにしているか。先延ばしを頻繁に行っているか。
　著者は、その「先延ばし」「後回し」が仕事を遅くする主因であると言う。鏡自身、読後、実際に試してみてその即効性に驚いた。たいていの自己啓発書は読んでも即効性はないが、この本に限っては、みごとな即効性がある。そして自分で体験して初めて感じるのだ。いかにほとんどの人が仕事が遅いか、できる人でもまだまだ遅いレベルにあるか、ということを。そして、自分もまたその一員だったことを、痛切に思い知るのだ。
　ちなみに実験台は鏡一人だけではない。後輩１名にも勧めたが、即効で効いたようだ。へたをすると、風邪薬より効くかもしれない。いつも時間がない人、仕事が進まない人、もっと早く仕事を終えてさっさと帰宅したい人、余暇の時間を欲しい人には是非とも、その即効性を身をもって確かめてほしい。自分が社長なら、新入社員に配ってしまいたいほどの一冊。
　なお、「仕事」の中に「ガンダムの操縦」は入っていない。本書を読んだからといって、「ぼくが一番うまくガンダムを動かせる」ようにはならないので、悪しからず。
なぜか、「仕事がうまくいく人」の習慣
　
図解なぜか、「仕事がうまくいく人」の習慣

啓示空間

　ハードＳＦ『啓示空間』は次の一節で始まる。

　レザーストームが近い。
　シルベステは発掘現場のふちに立ち、作業員たちははたして今夜を生き延びられるかなと思った。

　『啓示空間』の原題はREVELATION SPACE。
　revelationとは、明らかになること、即ち啓示である。原題の通りだ。
　しかも、分厚い。
　そのボリューム、1000ページ超。厚さは4センチを越えている。この分厚い一冊を読み切ればそこに見えるのが啓示空間なのでは？　と思えるほどの厚みだ。だが、勿論、この1000頁超の物語を読み切る作業そのものが啓示空間というわけではない。反対に100頁単位で、『啓示空間』の世界にぐいぐいと引きずり込まれていく。
　『啓示空間』の作者は、天文学出身の英国の小説家アレステア・レナルズ。本作『啓示空間』で英国ＳＦ協会賞にノミネートされ、２作目『カズムシティ』で見事英国ＳＦ協会賞を受賞している。
　主人公は、イエローストーン星カズムシティの名門の出身、ダニエル・シルベステ。リサーガム星の辺境で、絶命した異星種族アマランティン族の遺跡の発掘に執念を燃やしている。年に１、２度しか来ない大嵐が来るというのに、退避命令も出さずに掘り出そうとする始末。
　アマランティン族滅亡の原因を解きあかす鍵となりそうな、重要なオベリスクが発見されたのだ。きっとそこには、石器時代の人々と考えられているアマランティン族が太陽に滅ぼされた理由が書かれているに違いない。そうダニエル・シルベステは考える。
　書かれていたのは、孔雀座の星系図だった。アマランティン族は石器時代の人々ではなかった。少なくとも、望遠鏡を保有するだけの文明レベルに到達していた種族だったのだ。
　なぜ彼らは太陽に滅ぼされたのか？　サンスティーラーとは？　科学者ダニエル・シルベステ、近光速船の乗組員イリア・ボリョーワ、イエローストーン星のカズムシティで暗殺者として生計を立てるアナ・クーリー。３人の視点＝カメラを駆使しながら、宇宙全体の存亡をテーマにしたグランドスケールなサイエンスフィクションが展開されていく。
　『啓示空間』の物語の構図は、いわゆる「異文明遭遇譚」だが、そこに宇宙の存亡、否、人類の存亡をかけて重厚な物語世界を構築してある。男と女の愛情もちょっとかぶせてあるところが、またいい。
　鏡は１日で『啓示空間』を読み切ったが、そのときには読後のタイトルは、『啓示空間』ではなく『満足空間』に変わっていた。久々にたっぷりとＳＦを味わったなという気分だった。

　インターネットは、ケータイは、果たして世界を拡張し、新たな人との結びつきを促進しているのだろうか？
　否、と著者は言う。インフラストラクチャーとしては、確かにそのような力を持っている。しかし、実情は正反対の方向に向かっている。
　たとえば、学食──大学の食堂──を見てみよう。今の子たちはケータイで連絡を取り合ってから仲間うちで食べるのだそうだ。単独で学食に出向いて、偶然知り合いに出会うという偶然性は少なくなってしまっている。
　世界は、コミュニケーション的にだけではなく、物理的にも縮小をつづけている。それは毎日の通勤電車の中でもそうだ。

《電車の中には本も新聞も読まずひたすらメールを送受信している者ばかりだ。彼らは「週刊女性自身」の車内吊り広告すら見ない。その代わり、友人の太郎と花子が別れたとかくっついたとかいったことばかりをやり取りしている。それは自分だけの週刊誌を作っているようなものだ。だからわたしはこれを「週刊自分自身」現象と呼ぶ。とすれば携帯はわれわれのコミュニケーション世界を狭めたかもしれないのだ》

　こうなってしまったのは、ケータイやインターネットの「選択性」、《つまり自分の好きな相手だけ選べるという特性》が関係しているという。

《コミュニケーションできる相手を自分の好みで選択できるということは、逆に言えば、自分の好まない相手となんとか会話を成り立たせる能力が未開発のまま終わるということである。会話する相手は会話して楽しい相手だけであり、会うのは会って楽しい相手だけである。嫌な奴と一緒にいるときに、適当にその場を取り繕うとか、何とか仲良くできないか探りを入れてみるといった経験を積まない人間が増えるのである》

　著者は、三浦展。ベストセラー『下流社会』の著者である。80年代にパルコに勤務し、アクロスの編集長を務めていた筆者ならではの分析は、見ていて潔い。理論ばかりで社会の現実に疎い学者の著書とは、一味も二味も説得力が違う。後半のユーミン論──ディズニーランドと黄金期のアメリカ消費文化とユーミンが結びついているという主張──もなかなかに面白い。
「自由な時代」の「不安な自分」

　占いを批判する人のほとんどは、占いのシステムを知らずに闇雲に「科学」を振り回す野蛮人が多いが、そういう人にも、そうでない人にも、是非やってほしいのが易占い。取っ掛かりが『易経』という書物というのが、かちこちの頭の人にはいい。
　鏡が易占いを始めたのは浪人時代である。エリートを目指していた鏡の前に現れたのが、この本だった。
黄小娥の易入門

　当時は文庫判で400円だったが、「騙されたと思ってやってみなさい」という著者の言葉に得心して、「400円の出費やったら、まあえっか」と購入、帰宅してから模擬試験の結果を占ってみたのである。
　Ｂ判定という占断だった。そして、結果はその通りになった。以来、20年近くにわたって易占いをつづけている。その間、参考書籍も色々と変わったが、久々にこんな本に出会った。
もっともわかりやすい易占い

　どんな占いにせよ、占いの敷居は決して低くないものだ。それは、学校の勉強で培ってきた頭の使い方とはまったく違う脳味噌の使い方を強いられるからだ。
　だが、本書は敷居を低くする努力がなされている。『易経』からの直接の引用を最低限に抑えて解説してあるのだ。そして、初心者でも占断が下せるように、「恋愛・結婚」「仕事・勉強」「対人関係」「お金」「美容・健康」「その他」という６項目に分けて簡単な御神籤的答えを用意してある。
　ある意味、すぐわかる答えを書いておくというのは、占いの神髄からすれば邪道である。しかし、これくらいの方が初心者にはいいのだ。わからないのでは、占いをつづけられない。だから、最初はわかった方がいい。だんだん占いをこなしてやり慣れていきながら御神籤的占断以外の解説を読んで、理解を深めていけばいい。
　その意味では、段階的に学習するために非常に優しい内容に仕上がっていると言える。男女の相性に対しても、易占いへの理解を深める形で詳述してあるのが、悩める女性と悩める男の子向けでいい。
　この一冊で易占いを大幅理解した人には、
すぐに役立つ銭流『易経』
　がお薦め。鏡が一番よく使った本である。実家には、本当に手垢がついて黒ずんだ一冊が残っている。
　さらに原典の『易経』を読みたくなったら、岩波文庫版よりもこれ。
易

　高いけれども、それなりに価値がある。原典を闇雲に読んでも、『易経』は理解を深められるものではない。解説が必要。
　占いなんて非科学的なものを利用するなんて、現代人としての敗北なんて感じる人もいるかもしれないが、科学一辺倒で非科学を受け入れられない方こそ、堅物の象徴。占いも許容できる懐の深さを身に着けたいところだ。