インターネットは、ケータイは、果たして世界を拡張し、新たな人との結びつきを促進しているのだろうか？
　否、と著者は言う。インフラストラクチャーとしては、確かにそのような力を持っている。しかし、実情は正反対の方向に向かっている。
　たとえば、学食──大学の食堂──を見てみよう。今の子たちはケータイで連絡を取り合ってから仲間うちで食べるのだそうだ。単独で学食に出向いて、偶然知り合いに出会うという偶然性は少なくなってしまっている。
　世界は、コミュニケーション的にだけではなく、物理的にも縮小をつづけている。それは毎日の通勤電車の中でもそうだ。

《電車の中には本も新聞も読まずひたすらメールを送受信している者ばかりだ。彼らは「週刊女性自身」の車内吊り広告すら見ない。その代わり、友人の太郎と花子が別れたとかくっついたとかいったことばかりをやり取りしている。それは自分だけの週刊誌を作っているようなものだ。だからわたしはこれを「週刊自分自身」現象と呼ぶ。とすれば携帯はわれわれのコミュニケーション世界を狭めたかもしれないのだ》

　こうなってしまったのは、ケータイやインターネットの「選択性」、《つまり自分の好きな相手だけ選べるという特性》が関係しているという。

《コミュニケーションできる相手を自分の好みで選択できるということは、逆に言えば、自分の好まない相手となんとか会話を成り立たせる能力が未開発のまま終わるということである。会話する相手は会話して楽しい相手だけであり、会うのは会って楽しい相手だけである。嫌な奴と一緒にいるときに、適当にその場を取り繕うとか、何とか仲良くできないか探りを入れてみるといった経験を積まない人間が増えるのである》

　著者は、三浦展。ベストセラー『下流社会』の著者である。80年代にパルコに勤務し、アクロスの編集長を務めていた筆者ならではの分析は、見ていて潔い。理論ばかりで社会の現実に疎い学者の著書とは、一味も二味も説得力が違う。後半のユーミン論──ディズニーランドと黄金期のアメリカ消費文化とユーミンが結びついているという主張──もなかなかに面白い。
「自由な時代」の「不安な自分」