WEB上の日記を知的に読む、つまり何かのヒントとして読むというのは少なくて、たいていは覗き見的な愉しみとして他人の日記を消費しているのではなかろうか。だとすれば、女子更衣室に忍び込んでカーテンの隙間から女体を覗こうとした島根大学の助教授と心理的には変わらない。ただ違うのは、島根大学の助教授が覗いたのは30代の女性職員であり、それが法に触れる行為だったということぐらいで、覗かれた当人が恐らくお目当ての女子大生だったとしても変わりはない。
　ただ、自分は覗き見的な部分に価値を見出せなくて、読めるのは作家さんや絵描きさんのお仕事情報がつまった日記くらいである。ゲーセンに行ったの、そこで格闘ゲームに燃えただの、どこまでＲＰＢを進めただの、どこへ出かけただの、何を買おうか迷っているだの、そうした瑣末な個人的な行動の羅列には、まるっきり興味が持てない。そういったものがわざわざ公開される必要があることだとは思えないのだ。
　多分、20年近く万年筆で日記をつづけていたからだろう。個人的な行動を記録するなど、自分にとっては小便を垂れていた頃の行為か夏休みの宿題で出される下手糞な絵日記にすぎないのである。
　WEB上の日記も4年近くつづけていたけれど、ある時、突然気持ち悪くなってやめてしまった。女の子の部屋にカメラを設置しておいて、その子の生態を24時間眺められるというアダルトなサイトがあるけれど、それに似た、自分の生活を覗かれる不気味さ、気色悪さを感じたのだ。
　粘着質な自分は日々の起床の時間も食事の時間も仕事の時間も克明に綴っていたので、生活はほとんどシースルーだった。勿論、それが他人に読まれることは百も承知していたし、承知した上で実名を出したり出さなかったり、情報を載せたり載せなかったりを選んで読者を意識した上でのフィルタリングをしていたのだけれど、ある日突然、なぜ自分の生活に対して透明性を確保しようとするのか、理由がわからなくなった。
　日記を綴って他人に公開するというのは、自分の生活に透明性を導入するということである。でも、なぜそんなことをするのか、理由があるように思えないのだ。
　自分には、書かれたものが何かしら意味や有用性を持っていなければならないという強迫観念がある。でも、健康のためにコーヒーを飲む人はいまい。日記も同じだ。他人が他人の日記を読むのは、別に意味や情報が欲しいからではないのだ。むしろ、逆にそれらから自由になって一息つきたいから、おおよそ活字に耐ええないと思われる羅列が日記を飾り、それが人気を博すのだろう。人は日記を、煙草やコーヒー代わりに嗜んでいるだけなのかもしれない。