美少女ゲームの場合、恐らく「方言」そのものに対する需要は存在しない。少なくとも、そう言っていいくらい、ニーズは低い。方言を売りにしたゲームを出したとしても、恐らく売れないだろう。「関西弁の女の子、いいな」「秋田弁の女の子、いいな」という「声」は確かにあるけれど、その声はサイレント・マジョリティが保有しているものではない。
　「この方言の女の子がほしい」と言っても、そんな子を実現したからといって、何人の受け手たちがほしいと思うのか。その総数が1000本程度では、とても商業ベースには載せられない。そして、恐らくそれが現状なのだ。この手のゲームこそ、同人で追求するべきものなのかもしれない。
　方言を使ったエンターテインメントが出たからといって、方言へのニーズが生まれていると短絡的に結論づけるのはいささか単純だ。表層で分析するのは危険である。
　ユーザーは方言そのものを求めているわけではない。方言は、ある装置であり、あるシンボルにすぎない。その物語の世界観を際立て、特徴づけるひとつの装置であり、その世界の独特な味わいのシンボルである。ユーザーは方言によって際立てられた世界観や味わいに「深く」反応しているのであって、方言そのものに「深く」反応しているわけではない。際立った世界観や味わいを楽しませるのなら、方言を使わない方法だってある。問題は、方言を使ったとしても、それが世界観や味わいとどれだけ通底しているのか、どれだけ物語に深く関わり、物語を引き立てているか、なのだ。その深部への眼差しがないまま方言の女の子を登場させたところで、期待するセールスは得られないだろう。逆に言えば、その手の深層的理由が確保できるのならば、方言を使ったゲームがヒットする可能性はあるということである。しかし、潮流にはなりえまい。なぜなら、求められているのは方言そのものではないからだ。
　現在、マーケットに存在するのは、方言へのニーズではない。笑わせ、楽しませてくれる世界へのニーズだ。そこを勘違いしてしまうと、「方言への需要はある」なんて錯覚に陥ってしまう。方言への「声」は確かにあるが、「需要」と言えるほど、マーケットでの存在があるわけではない。また、ユーザーは直接方言を求めているわけではない。ユーザーの「声」は即「需要」というわけではないのだ。「需要」は「声」の向こう側にあるのである。

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