美少女ゲームには、過去何作となく方言が使われている。鏡が和泉時彦時代につくった『リエゾン』にも『Fresh～ティーンズメモリー～』にも、関西弁は登場する。『リエゾン』にいたっては主人公自身が関西弁だったが、美少女ゲームで方言が広まるのはまだ早いだろう。もしかすると、永遠に来ないかもしれない。『瀬戸の花嫁』みたいに方言がヒロイン側の言葉としてかなり広範囲に使われるというのは、ごく一部の突発的なものに終わるに違いない。潮流とはならないだろう。
　美少女ゲームは、本来高価なソフトだ。その高価な商品に対していろんなお客さんを呼ぶために、マルチヒロインというシステムを採用している。一般的なフルプライス商品の場合、巨乳ばかりにヒロインをかためずに、体型も性格も萌えタイプも多様なタイプのヒロインをバランスよく配置して、できるだけ多くの嗜好のユーザーを捉えようとするのだ。これが美少女ゲームの宿命である。
　しかし、ヒロインを全員方言にしてしまうと、せっかくマルチヒロインによっていろんな客を引き寄せようとしているのに、方言の使用によって逆に客を遠ざけてしまう。方言の使用が、いろんなユーザーを集めるのではなく、逆にユーザーを狭く限定してしまうのだ。単線的・単層的な構造を持つアニメという物語と、複線的・多層的構造を持つ美少女ゲームとの大きな違いである。方言を使ったヒット作が生まれる可能性はあるが、残念ながら方言を使うという流れがひとつの潮流となることはないだろう。