会社住民と地域住民。
　ある主婦の方と話をしていて、こんな考えを思いついた。すでに他の方も懐いているかもしれない。
　話は、結婚したばかりの夫婦だ。
　妻は専業主婦。夫は会社員。夫を見送ってから妻の１日が始まる。洗濯に自宅の掃除。近辺への買い物。近所の人との立ち話。夕食の準備。
　妻の活動時間は、ほとんど自宅近辺の地域圏に限られている。触れ合う人も、地域の人ばかりだ。こういう、活動時間が地域圏にある人を、地域住民と呼ぼうと思う。妻は地域住民である。
　では、夫はどうか。
　夫の活動時間のほとんどは、地域ではなく会社である。触れ合う人も、触れ合う場所も、会社近辺だ。地域圏に戻るのは夜ぐらいで、それもすぐ眠ってしまう。活動域は、明らかに地域圏ではなく会社圏にある。こういう、活動時間が会社圏にある人のことを、会社住民と呼ぼうと思う。夫は会社住民である。
　さて、問題は互いに住んでいる「圏」の違いである。
　夫は会社圏の住民である。結婚しても会社を変わるわけではない。ましてや、自らが専業主夫となって地域住民になるわけではない。たいていは夫が働きに行く。会社には知り合いがいるから、孤独を味わうこともない。なんといっても、家に帰れば新妻が待ってくれているのだ。
　しかし、妻はどうか。
　結婚前に働いていた場合、妻は地域住民ではなく、会社住民だった。そこには知り合いもおり、孤独を感じることはなかった。けれども、結婚によって会社住民から地域住民に変わると、とたんに孤独になる。
　知らない土地に、知らない人。すでに住民同士でグループもできている。なかなか中には入りづらい。妻は、結婚によって昼間の孤独を背負い込むことになる。
　ハネムーン気分が醒める頃には、妻は孤独に苛まれているというわけだ。ことさら、地域社会が弱まっている現代都市では、その傾向は強まるだろう。
　「結婚して住むところは、奥さんに合わせた方がいいのかもしれませんね」と主婦の方は言った。勿論、夫の勤務地との関係や交通の関係もあるけれど、その範囲内で、妻が地域住民として暮らしやすいところを選んでいった方が、結婚生活はうまく行くのかもしれない。