値段というものを、人は知らない。
　知っているつもりでも、それはあくまでも「相場の中で高いか低いか」であって、値札につけられた数値そのものではなかったりする。
　以前、ル・クルーゼの鍋をクリスマスプレゼントで♀に買ったことがある。
　2.5リットル入るホーロー製のもので値段1万6千円。
　ちょいと近所のスーパーに行けば、普通の鍋なら高くても5千円で売っている。ル・クルーゼは相場の3～5倍ぐらいだから、「高い」ということになる。
　だが、2万円でまともなデジカメが手に入るだろうか？　液晶モニターは？　バイクは？　パソコンは？
　ホーローの鍋は手入れすれば10年はもつ。年間1600円の投資だ。モデルが古くなるということもない。
　だが、パソコンは？
　20万円出しても、5年すれば価値はなくなってしまう。デジカメだって、すぐモデルが古くなってしまう。液晶モニターだって、5年ほどで寿命が来てしまう。
　そう考えていくと、相場から見ると「高い」と思えたル・クルーゼは、決して高い買い物ではないのだ。むしろ、安い買い物なのだ。少なくとも、奥さんや彼女が料理好きならば。
　以前、3000円のコーヒーを頼んだことがある。
　そんな高いものをと言われたけれど、1杯3000円のコーヒーを一生のうちに何度飲むというのだろうか？　恐らく、一生に1度だけだろう。この先50年間生きるとして、年間60円の投資。おまけに、一度飲めば話のネタができあがる。缶コーヒーで100円、喫茶店に入ってコーヒー300～500円という相場でものを考えているから、値札の向こう側にあるものを見失う。
　値段そのものではなく相場で値札を見るから、ものの価値が見えなくなってしまう。相場という瞬間瞬間の数値で判断してしまって、10年単位、20年単位で使用した時のことを考えないから、値札の向こう側を見通すことができない。
　2万円で高いと言い張る男子諸君には、風俗の値段を考えてもらいたい。ヘルスやイメクラでも、都内ならだいたい2万円。だが、1万6千円の鍋なら、10年間美味しいものが食べられる。どっちが「高い」のだろうか。

初めてコメントさせていただきます。私は実はゲームの世界については無知なのですが、アマチュアの立場で小説を書いていることもあり鏡さんのお仕事に興味を持ちました。また、本業においても鏡さんの心意気を実践すべくいつも拝読しています。
本題に入りますと、明石家さんま氏の番組で有名になった加藤淳という方がクリーニングの適正価格について、「定価の五パーセントまで」と御自身の中で基準を設けておられるそうです。少々高くても、それに見合った仕事が成されればそれでいい、と。その言葉を聞いて、それまでケチに物事を考えていた自分のあり方を考えさせられました。
相場という考え方で言うなら、高いものにはそれ相応の理由があり（むろん、詐欺もあり得るでしょうが）、消費者としての自分は価格を云々するよりもまずその理由を知ることが重要だと気付きました。その理由を知ることが、すなわち自分の審美眼や価値観を磨くことに繋がるのだ、と。
長々とコメントしてしまってすみません。今後も拝読させていただきます。

　コメントありがとうございます！　へこんでいたのでとってもうれしいです！
　加藤淳さんは、自分で値札（適正価格）を考えているんですね。豊かな心というか、おおらかなメンタリティというか、いいことですね。
　ぼくの中には、自己基準の適正価格というのはまだないんですね。値段以上の仕事をしようといつも思っているので、そういう考え方はしてこなかったのかもしれません。