人工進化の秘密！

　昨日、バドミントン仲間との飲み会へ行く途中に読んだ一冊。
　シナリオライターの一人がこよなくエドモンド・ハミルトンを愛していて、そんなに好きならばいっちょ読んでみるかと始めたのがきっかけ。以後、１冊１冊読み進めて、８冊目『人工進化の秘密！』まで来た。
　キャプテン・フューチャーには、荒唐無稽という言葉が似つかわしい。本格ＳＦでもハードＳＦでもないし、今から見ると時々恐ろしいことをやらかしているけれど――原子銃なんか使って放射能汚染は大丈夫なのかと思い切り心配になるけれど――、主人公に次々と事件が起きて難題が降りかかり、どってんばったんしながら最後に解決しちゃうというところが痛快なのだ。どうせこうなるんだろうとおおかたの構造はわかっていても、娯楽に徹しきった潔さに引き寄せられて最後まで読んでしまう。まさに娯楽作品なのだ。
　エンターテインメントというカタカナの響きではない。娯楽作品という漢字の響きである。
　柄谷行人によると、物語とは、すでに知っているもの、「既知の構造」だという。

《子供に話をすると「それから？」と聞くわけですけれども、しかし、「それから？」が期待するものは、ニューズではなくて、実は既知の構造ですね》
《頭が疲れたときに楽しめるものというのは、構造がわかっているものですね。それは娯楽映画であり、大衆小説ですね。赤川次郎でも、なぜ高校生に人気があるのか、大学生に人気があるのかといえば、構造的だからです。読む者は「それから？」というサスペンスで読んでいるつもりでしょうけど、実のところ、もう知っているんですね。プラトン的にいえば、それは「想起」なのです。知っていることを、もう一回思い出すという楽しみですよ。しかし、物語の喜びというのは何かというかと、知らないことを知ることじゃなくて、想起することにあると思う》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（『闘争のエチカ』河出文庫、108ページ）

　その意味では、キャプテン・フューチャーはまさに「物語」である。人は、典型的なアメリカンヒーローの主人公が自力で事件を解決すると知っている。悪が倒されることも知っている。ただ、それが具体的にどのように行われるか知らないだけで、物語の構造自体は知っているのだ。そして、それがエンターテインメントなのである。
　キャプテン・フューチャーは、非常に「物語」に対して素直な物語である。ＳＦとして美しくあるよりも、読む人を楽しませることに徹した物語である。その著者の心が、何人もの人を時代を越えて引き寄せるのだろう。

キャプテン・フューチャーキャプテン・フューチャー (''CAPTAIN FUTURE'') はエドモンド・ハミルトンにより書かれたスペースオペラのシリーズであり、その主人公であるカーティス・ニュートンの別名である。物語ではキャプテン・フューチャーとフューチャーメン（サイモン、 　［続きを読む］