こんな記事があがっていた。
面白い？拍子抜け？　「ハルキスト」は話題の新作をどう読んだのか（産経新聞） - Y!ニュース

　感性で読んだのか、ロジックで分析したのか。すなわち、印象論的読み方をしたのか、ロジカルな読み方をしたのかで、評論家に対する印象が変わるね。

　文芸評論家・清水良典氏の分析については、「大きな喪失と傷を心に抱えた者へのメッセージ」というところがなるほどなあ、という感じ。そういう読み方はぼくはしていなかった。道前ひろこ氏は、ぼくから見ると持ち上げすぎに思える。非常に主観的な印象論。彼女にはぴったり合致したんだろうね。

　批評家・宇野常寛氏は、作品分析をさせるといい仕事をする人。まどマギについても、面白い分析ツイートをしていた。「小品」という表現、「総合小説を期待して読むと落胆する」という部分は、同じことを言っている。確かに、『１Ｑ８４』に比べると、マクロではなくミクロで、規模は小さい。まさに「小品」。そして、総合小説ではない。

「無関心から関心へ」のシフトは、『１Ｑ８４』の天吾もそうだったね。ぼく自身３回読んで分析を行ってみて、プロットの緻密さに関しては『１Ｑ８４』に劣るなと思ったし、『１Ｑ８４』にはない冗長さを感じたが、宇野氏はそれを「この分量で描かなければならない題材ではない」という形で表現している。もう少し短めの方が、ぴったりだったのかもしれないね。

　帯の後ろを読む限り、村上先生は今回ノープロットで書かれたみたい。それがプロットの緻密さを奪い、冗長さを生んでしまったのだろうなと、作り手としては感じる。その分、個人的な傷を抱える人、すなわち「大きな喪失と傷を心に抱えた者」に対してはピンポイントになったのではないか。

『１Ｑ８４』のような壮大さやグランドデザインはなくなってしまったので、ロジカルに分析する者としては「小品だな」という印象を持ってしまうけどね。だから、宇野氏の気持ちはわかる気がする。

　感性で読む人、すなわち大衆は、自分の過去や自分の傷、自分の人生、自分の心と照らし合わせて村上春樹を読む。そして、紀行紹介の番組を眺めるような気分で情景描写を読む。

　分析的に読む人、すなわち批評家は、自分と照らし合わせて読んだりしない。情景描写もひとつの情報。文章も台詞もすべて情報。その大量の情報の中に込められた象徴、テーマを解読＆分析しながら読む。

　六本指、ああ、これはこういう意味だな。限定的、この言葉はこういうことを意味するために使われているな。小説的文章と会話の中に埋め込まれた知的な謎を次々と解読していく。まるでガリレオこと湯川学のように。だから、普通の人には批評家の言っていることはわからない。