昨日は、『ポール・ド・マン』を著した土田知則先生のトークショーに参加してきた。

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　土田先生は、ポール・ド・マンの主著『読むことのアレゴリー』の訳者でもある。

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　読むことのアレルギーではないぞ。花粉症の時期だからといって、勘違いしないように（笑）。
　トークの相手は、巽孝之先生。
　東京堂ホールの六階は、ほぼ満席だった。出席者は80名ほど。女性は20名、つまり1/4。時折こぼれる冗談に、控えめに乾いた笑いが広がるのは、哲学系の特徴か。哲学科の飲み会は非常に声が小さくて、隣がうるさいと聞き取れない。

　お題目は「ポール・ド・マン・ルネサンスのために」。
　没後30年だという。

　ポール・ド・マンの名前は、柄谷行人の著作で知っていてた。
　ユダヤ人に対する批判的な記事を書いたことでバッシングされた、イェール大学の教授。

　どんなハイレベルなトークになるかと期待していたのだが、２時間あたりの情報密度はあまり高くなかった。そのため、ポール・ド・マンが詐欺と重婚をやらかしていたというゴシップが印象に残ってしまった。肝心の知的なフレームワークについては、印象が薄い。

　その中でも興味を惹かれたのは、「マシーン」と「物質性」という概念。
　言葉を話すというのは、マシーンであるというのが「マシーン」。物質性とは、言葉の物質性。

　だが、ぼくの中では釈然としない。
　話すという行為にマシーン的（全自動ロボット的）な部分はあるだろうが、ぼくの考えでは半自動。自動的（マシーン的）にしゃべる時と統御してしゃべる時がある。両者は簡単に接続＆シフトする。統御においても、明確な意識的な統御と、直感的な統御がある。そういうレベルまで突っ込んだ議論が聞きたかった。物書きとしては、物足りなかった。

　「物質性」については、土田先生の比喩がピンと来なかった。文字は物質である。だから、言葉は物質である。そうだろうか？　文字がない世界では、言葉はどうなるのだ？　物質性は完全になくなってしまうぞ？　言葉を職業とする人間としては、もっと高いレベルの議論が聞きたかった。
　
　先生お二人の声は張りがあって、そこは非常に好印象を抱いた。二人とも、なかなか心地よい声の持ち主だ。
　ただ、トークショーということで、土田先生はきっとご遠慮されたのだろう。あるいは手加減されたのだろう。その分、情報密度が落ちて凡庸になった。手加減なしのトークが聞きたかった。原稿の合間に足を運んだだけに、残念だ。