ジャック・アタリの指摘。1492年は、キリスト教の純化が始まる年だった。イスラムという異教徒が追い出され、次にユダヤ人が追い出された。そして、植民地化のきっかけとなるコロンブスの航海が始まる。実は、フランスも、コロンブスに探検の許可を与える可能性があったらしい。

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　しかし、コロンブスに許可を与えたのはスペインだった。そのスペインは、1492年以前まで仲良くやってきたユダヤ人の追放を、突然決める。税金を倍にしていただいてもかまわないとユダヤ人は懇願したが、いざベル女王とフェルディナンドは聞き入れなかった。ユダヤ人追放については、特にイザベル女王が乗り気だったという。

　やがて、ポルトガルもユダヤ人追放に追随し、ユダヤ人たちは、ポーランドへ、フランス軟部へ、そしてイスラム帝国へ逃れる。

　スペインを追放されたユダヤ人を迎え入れたバヤズィト2世は、「これほど役に立つ臣民を追放するキリスト教君主たちのばかさ加減」に驚いたという。愚かなりスペイン。ユダヤ人追放が金融関係者を遠ざけ、恐らく国内の金融・徴税システムをぐちゃぐちゃにし、イギリスに敗北する前にスペインを葬った。

　エラスムスには、ヒトラーとの共通性がある。ユダヤ人をつくるのは信仰（宗教）ではなく、人種だと考えていた。それゆえ、ユダヤ人追放後のスペインは、まだ不充分であると考えていた。純潔への夢想。いつでも純潔の夢想は、大きな弊害を生み出す。表現規制もまた、純潔への夢想をベースにしている。

　極右と極左が著しい類似性を示すのは、ともに純潔への夢想に根ざしているからである。純潔への夢想は、現実に価値を認めない。現実は悪しきものであり、純潔への道を阻害するものとして解釈する。結果、有効な社会システムの数々が破壊され、取り返しのつかない損失を招く。

　理想論の恐ろしさというのも、そこにある。理想論にもまた、純潔への夢想がある。結果、現実を無視する。そして彼に率いられた組織をぐちゃぐちゃにする。

　しかし、性的な夢想やポルノグラフィには、純潔への夢想というものはない。むしろ、純潔を打ち破ることによってポルノグラフィは成立する。その意味では、ポルノグラフィを危険視する考え方は間違っている。

　ところが、純潔への夢想は、政治家に説得力を与える。結果、政治家は採用する必要のない夢想を取り入れ、やってはいけない実現を目指すことになる。それは、国家運営的に損失を招くことになる。

　したがって国家を運営する側は、いかに純潔への夢想を相手にしないか、純潔への夢想を過剰に政治に引き入れないようにするか、純潔への夢想によって国家の未来が逆に潰れないように注意する必要がある。国家の未来にとっての敵は、純潔への夢想を是が非でも実現しようとする人たちなのである。