きっかけは、成年マンガ家の新堂エル氏のツイートだ。

最近作家さんとエロマンガのお話をしてて、「商業はビジネスだから売れ線以外描くのはオナニーだ」と言われてショックを受けました。そのときは「作家のオナニーの無いような熱意の無いエロマンガなんて読みたいと思わない！」と返しました…悪く言えばオナニー、よく言えば作家性…かな。漫画か

　エロマンガにはエロマンガの制約がある。件のエロマンガ家氏の発言にはそれなりの背景と理由があったのだと思うが、そういう同情的理解だけでは片づけられない問題がある。一連のツイートをまとめておく。

新堂エル氏 @Shindo_L がエロマンガ家と話をしていて「商業はビジネスだから売れ線以外描くのはオナニーだ」と言われてショックを受けたという話。アマチュアが行ってしまう「オナニー」とは違うレベルのもの。同じオナニーという言葉を使っているが、同一のものではないので注意。

アマチュアが行うオナニーは「自分は凄いぞ」と見せつけるための、自負心満足のためのもの。エロマンガ家が言うオナニーは、売れ線以外のものを描くこと。後者は別名、萎縮、あるいは諦観ともいう。

アマチュアのオナニーには「自分は凄いと思いたい」という足掻きがあり、新堂エル氏が指摘するエロマンガ家には「好きなものを描いてもおれはだめだから」という諦めと敗北がある。前者は他者（お客）を無視することによって発生し、後者は他者（お客）を過剰に意識しすぎることによって発生する。

新堂エル氏 @Shindo_L の悲憤慷慨は、ぼくは正当だと思うね。オナニーという用語を使うから誤読する人が増えてしまうけど、作り手は料理人。「お客さんがピーマン嫌いだから」ピーマンを入れないのは二流。嫌いな人にどうにかして美味いと言わせようと工夫するのが一流。

「商業はビジネスだから売れ線以外描くのはオナニーだ」と言う人は、正直言って新規開拓能力のない人であり、自分にリミッターをつけている点でただの敗北者。ぼくは巨乳フェチゲームが2003年に生まれる5年前から、全員巨乳爆乳ヒロインのゲームをつくってたぞ。数もそれなりに出したぞ。

「お客さんがピーマンが嫌いだから、出さない」というのは、言い方悪いけど、ただの負け犬。「売れ線じゃないものを出すのはオナニー」って、マーケットに敗れてクリエイター的インポテンツになってるんでしょ？　これがいいんだって伝えたいっていうパッションを失っている。いわば不能状態。

男性読者を勃たせようって人が、インポテンツになっどうすんのよ。勃てよ。クリエイターの心を勃たせなよ。

クリエイティブな世界で言うオナニーという言葉を理解していない人が多いので、注釈。オナニーというのは、お客を見ないで、自負心を満足させるためだけにつくること。自尊心じゃなくて、自負心。自尊心がある人は、ちゃんとお客を見ます。

「オナニー作品が悪いんじゃない、鑑賞に耐えるオナニーを」と言っている人は、用語を間違えている。オナニー作品は悪い。しかし、自分や自分のパッションを放棄した商業作品もまた、「長期的に」悪い。それはマーケットをフラットにし、市場から豊穣さを、そしてお客を、失わせることになる。

クリエイティブな世界で言うオナニーを「自己満足」として捉えている人は、オナニーに対して不完全な理解をしている。自己満足ではない。自負心満足である。そもそも作品をつくる以上、自分は一人目の客なのであり、一人目の客を満足させるということは前提になっている。

「鑑賞に耐えうるオナニーを」というのは、「自分という客だけでなく、それ以外の客も満足できるもの」という意味。しかし、それはオナニーの意味を「自己満足」と間違えて捉えている。オナニーは自負心満足である。自己満足ではない。自己満足と自負心満足は違う。

オナニーを行ってしまうアマチュアは、自負心を満たすことだけに取り憑かれている。対して「売れ線以外のものを描くのはオナニー」と話すエロマンガ家は、自尊心の喪失に取り憑かれている。つまり、自尊心が破壊されている。

アマチュアがするようなオナニー、すなわち自負心満足だけの行為をしないのは、クリエイターの世界では当たり前の話。さらにその上のプロになってからの世界に、自分という作り手の味や自分という食材をどう出していくかという問題が発生する。

初めて一般ラノベ市場で書いた時、美少女ゲームよりも制約が多くてびっくりした。「ビジネスなんだから売れ線以外を描くのはオナニー」という言い方は、感情的には理解できる。ただ、だからといってそれをつづけていると、マーケットは縮小再生産の品であふれて豊穣さを失い、だめになる。

●追記
自負心は「（自分は凄くないから）凄いと思いたい」という気持ち。自尊心は「自分が価値ある存在だということは自分は凄くわかっている」という意識です。

「自負心は「自分は凄いんだ！　凄いはずなんだ！」と思い込もうとする心。それを満足させることが自負心満足。自己満足は自分がただ気持ちよくなることです。