アメリカの文豪ヘンリー・ミラーが残したポルノ小説（正確には性愛文学）『オプス・ピストルム』の中に、凌辱ものの謎を解く一節がある。

　作中、ミス・キャベンディッシュという女が登場する。主人公は「さも気がありそうな素振りを見せて男をからかって楽しむ、”コックティーザー”」と記している。

　性的なことをよく話して思わせぶりな態度を見せるが、決してやらせない女。男を性的にからかってよろこんでいる女。その女に対して、主人公たちが一様に怒りを感じて懲らしめることになる。
　主人公ももちろん手伝うことになるのだが、その際、こんな叙述が現れるのだ。

　わたしはこれまでに一度も強姦をしたことがない。つねにわたしにはそれがとても愚かしいことに思えたのだ。だが、それは男を悩ましてはうまくはぐらかすこの狡い女に出会うまでのことである。今やわたしは強姦に双手をあげて賛成だ。これまで女から衣服を剥ぎ取るのにこの女を裸にするほどの楽しみを味わうことはついぞなかった。（p64）

　キーになるのは、女への怒り、憎悪である。「この野郎！」と思わされる体験を、女にさせられた。その積み重ね、その強さが、強姦に対する心理的態度を変更させる。

　ヘンリー・ミラーは「強姦」として記しているが、実際には「凌辱」と言った方が正しいだろう。
　実際の行為としての強姦は、面識のない者同士の行為をベースにしている。強姦とは、暴力や脅迫によってセックスを強要して犯すことだが、それは未知の者同士の方が作用しやすい。既知の者同士だと「誰々に言うから」というブレーキが作動する可能性が残るからである。未知の者同士では、そのようなブレーキは存在すらしない。

　ポルノが強姦を描く場合、人間関係を物語に組み込むため、既知の者同士という関係性を使う。『オプス・ピストルム』の強姦プレイは、既知の者同士のプレイである。したがって、したがって「凌辱」として捉えた方が本質的だろう。

　ヘンリー・ミラーは、凌辱を受け入れる鍵を、女に対する怒りや憎悪として描いている。これは筆者が、『非実在青少年論～オタクと資本主義～』で述べていることと同じだ。

どんどん声を強め、態度を大きくしていく女性に対して、この野郎と思う男性の気持ち。それを物語という装置の中で解消したのが、凌辱ものや調教もののハードポルノでした。（p122）

　女性は、凌辱されるヒロインに自分を重ねて「女への誤解を招くもの」「女を襲ってもいいとして描くもの」として捉えてしまうけれど、それは被害妄想でしかない。
　
　よく考えてみるがいい。クラスの男子のうち、何人があなたを犯そうとしたのか。普通は犯さないのが、少なくとも日本の男性なのだ。

凌辱系を好きな人は、幼少期から思春期の頃に、女性との間に不幸な経験があり、その結果、女性を憎悪する気持ちが強く残ってしまった人が多いのではないか、とぼくは思っています。（p282）

　ポルノを敵視するとは、男性の性欲を敵視すること。しかし、男性の性欲は、仕事欲求と結びついている。男性の性欲≒仕事欲求を敵視して、でも男性に対して500万円以上稼げ、しっかり仕事しろとは、こはいかに。虫がよすぎるのではないか。都合のいい側面だけ好きになって都合の悪いと自分たちが思う側面は切り捨てるような考え方では、女性が望むような結果は訪れまい。ポルノを拒絶する思考やポルノを切り捨てる思考からは、女性は何も得られないのではなかろうか。

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