先日、知り合いの物書きの子と食事をした。
　その際に今書いているという原稿を見せてもらったら、校正原稿のように「ここが１頁の大きさだよ」と示す十字の印やら二重線やらが引いてある。
　もう校正やってるの？　と聞いたら、自分でチェック中の原稿だという。ソフトを使うと本物の校正原稿みたいにしてプリントアウトできるそうだ。
　雑学に疎い鏡は、へえ～っと驚いてしまったのだけれど、でも、その心理は凄く理解できた。できるだけ書店に並べられたものに近い形にしたい──完成形に近いもので見たいというのが、書き手の心理だからだ。別に完成形を見なくてもいいのならば、原稿用紙に手書きしている。パソコンで書くのは、いくらでも手直しできるからという理由よりも、実際に印刷された形、店頭で売られている形に近い姿を見ることがができるから、というのがあるように思う。
　鏡も、アマチュア時代に『巨乳教室』を書いている頃は、真ん中をあけてプリントアウトして、それをきれいに折り畳んで両端を綴じて、ちょっとした本みたいな感じにして悦に入っていた。書店に並べられている形にした時にどんなふうに見えるのかを見たかったし、そうした時に文章的にどこがよく見えてどこが悪く見えるのかをチェックしたかったのだ。
　物書きは、書かれている文字だけをコントロールしたいわけではない。どんなふうに字が埋まってどんなふうに余白ができるのか。余白もコントロールしたいと思ってしまう生き物である。
　だからなおさら、できるだけ本物に近い活字でできるだけ本物に近い行間でできるだけ本物に近い体裁でプリントアウトして、チェックしたいと思ってしまうのだ。