悪意のあるタイトルは許せ。
　タイミングを逸することこそ、時代の寵児である。
　というわけで、親友の奥さんから借りた『世界の中心で、愛をさけぶ』を読んだ。
　所要時間、電車の中で20分。
　最初に感じたのは、白血病がロマンとして再び機能するようになったんだ、という驚き。
　つづいてふつふつと湧いて出たのは、
　果てしなくテキスト量の少ないエロゲーだな
　ということと、
　中高生という多感期を横断した、ゲーム中時間の長いエロゲーだな
　という感想だった。文体や雰囲気や設定や物語が持っているある種の若々しさや気恥ずかしさが、特にそういう感じがしたのだ。
　ただ、エロゲーとして成立するには、主人公がヘタレすぎている。
　まず、物語ののっけから主人公は泣いている。目が覚めて泣いているのは、この主人公には日常茶飯事のことである。
　次に、あの有名な空港のシーンで、主人公は「助けてください」と他人に助けを求めることしかできないでいる。
　ヘタレていることが作品にとって問題的かといえばまるっきりノープロブレム（空港のシーンで主人公が逞しく電話を駆けまくってしまっては、セカチューではない）なのだが、かつて『あめいろの季節』でヘタレ主人公を生み出してしまった当事者としては、八神ゆうじ君を上回るこのヘタレぶりには、いろんな意味で驚いてしまうし、感心してしまうのである。