筑摩書房の『資本論』を読んだ。
　20年ぶりの新訳というだけあって、意味も取りやすく、関連書籍のなかでは最も読みやすかった。
　ただ何かを得たかといえば、実は何もない。別に『資本論』関連の小説を書くわけでもないし、19世紀の経済について何かものするわけでもない。直接的・短期的な効果はまったくない。
　けれども、だからこそ読む価値があると言える。読書というのは、すぐ効果が出る読書（短期的な読書）だけではない。5年10年と潜伏して、ある日突然滲み出てくるような、長期的に効果が発揮される読書（長期的な読書）もまた、読書のひとつである。そして、この長期的な読書をしているかどうかで、自分の脳味噌が変わってくるのだ。短期的に効果が出る本ばかり追いかけていても、己のなかで柱は育たないし、生涯追いかけるテーマも生まれてはこない。
　物書きの脳味噌はウィスキーみたいなところがあって、長い間貯めて発酵させないと出てこない部分がある。短期的な読書だけでは、まともなウィスキーにはならない。
　すぐ効果が出る読書ばかりやっていると、5年10年後の自分が育ちにくくなってしまう。時々は、一見無駄に見える読書、短期的には利益のない読書をするのも、物書きには必要なことだ。