『意味の論理学』の上巻を読み終わったあと、ほっと一息つきたくて羽生善治の対談集を読んだ。それが、『簡単に、単純に考える』である。
　対談者は３名。
　スポーツライター・二宮清純。
　元ラグビー日本代表監督・平尾誠二。
　そしてロボット工学者・金出武雄。
　印象に残ったのは、平尾誠二との対談だった。彼が、「分析力」と「洞察力」という分け方をしていたのだ。

「でも、問題を発見するのは分析力じゃないんです。じゃ何かといえば、洞察力で、問題発見能力というのは洞察力からくるんです。ところが、今までの日本社会では、集めた情報を分類整理する分析力の方が重要視されてきたんです。でも本当は分析よりも洞察が先にあるんですよ。どこに問題があるかパッと見て直感的に分かる人、これって洞察力のある人なんです。ラグビーにかぎらず優秀な人というのは、ます直感的に問題の所在を発見でき、次にその問題を構造化できるんです。構造化、つまり理論立てるわけです。なぜこの問題が発生したのか、それを理論的に構築できれば、次に改善策も見出せるんです」

　これを将棋に置き換えると、過去のデータや現状を分析することが「分析力」で、そうではなくて「この手だ！」とぱっと直感するのが「洞察力」ということになるらしい。
　なるほどな、と思った。
　世の中には、分析力はあっても洞察力がない人がいる。たとえば、ある商品が売れた原因を考える場合、これもある、あれもあると色々と並べ立てることはできるけれど、どれが一番の理由かをぱっと指摘できない人がいる。逆に、どれが一番の理由か、ぱっと見つけてしまう人がいる。そういうのは洞察力のあるタイプなのだろう。
　ゲームソフトを買おうとして、いろんなネットの情報を当たっていると、結果的に分析するだけで洞察できなくなってしまう場合がある。こんな意見もある、あんな意見もある。その意見の個別性と相対性にひきずられて、自分にとっての答えを直感できなくなってしまうのだ。分析だけでは答えは得られないということなのだろう。
　ところで、二宮清純との対談で、羽生善治が序盤、中盤は森を見て、終盤の詰めでは木を見るという内容のことを言っている。これは物語を書くときでも同じかもしれない。終盤というのは物語が完成して最後の推敲をしているときだけれども、ラフに言うと合っているなあ、という感じを受けた。
簡単に、単純に考える


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