締め切り当日。
　フェチシナリオの追い込みをかけているとき、小休止している間に冒険者がやってきた。


　……ン？
　はて、面妖な。この者は何者であろうか……？


　にょわっ！
　昆虫世界の忍者、ハエトリグモではないか！
　たぶん、つい最近生まれたばかりなのだろう。体長は３ミリほどしかない。幼さも漂う、初々しいばかりのハエトリグモの子供である。
《わいわ～い》
《この緑の上、なんか気持ちいいぞ～》
　とか思っているのかもしれないが、それはおれのリストパッドだ。
　まさか、おれの仕事の進み具合を偵察に現れたわけではあるまい。困ったところに現れたなと思っていたら、おチビちゃんはどうやら「ゆうしゃ」だったらしい。
《てやっ！》




　キーボードに飛びついた。
《わいわ～い》
《新大陸せいは～～！》
　とか思っているかもしれないが、そこはおれの仕事場である。
　まだ射精シーンが残っているのだが、どいてくれそうにない。冒険心満々である。さらに奥地まで開拓するつもりらしい。

　お～い。
　おチビちゃんよ～い。

　頼んでみたが、クモに通じるはずがない。

　やむをえぬ。
　許せ。

　キーボードを叩く分には邪魔にならないので、手を伸ばしてカタカタとキーボードを叩いて、射精後のシーンを書き出したら、


　ぴたっ！
　身体を縮めて、完全に停止してしまった。まるで恐怖の大王に怯えている様子である。
　どうやら、頭の上でがちゃがちゃ言う音が怖いらしい。完璧に防禦姿勢である。おチビちゃんなりに危険を感じているのだろう。
　とてもかわいかったのだけれど、怯えたままではかわいそうなので、テーブルに移動させてやった。
　それからおチビちゃんは、テーブルをちまちまとさまよって、いつの間にか消えていた。

なんて泣ける話し(:_;)がんばれオチビ、がんばれ鏡ｻﾝ！

　いい話でしょ？
　ちなみに翌日、大人のハエトリグモが登場。

　動き出すと２秒で１０センチ動くという、妙に早いハエトリグモだった。恐らく世界陸上か近いたからだと思う（笑）。