我々は、今でもあの衝撃を忘れない。
　１７歳Ｊカップ、夏目理緒。
　2001年、ファースト写真集。
　まるで巨乳フィギュアかバービー人形みたいに極端に立体感のある爆乳に、細い体幹とスリムなウエスト。あれだけの爆乳を誇りながら少しも太っていないという奇跡の映像に、我々は驚愕したものだ。

　夏目理緒は、ひとつの革命だった。
　Ｇカップの黒田美礼、Ｉカップの青木裕子、ＨカップのＭＥＧＵＭＩによってグラビア業界に爆乳市場が用意されていたとはいえ、彼女がなした功績は大きい。夏目理緒の一番の意義は、「爆乳＝デブ」という通念をぶち破ったことである。
　乳房とは、脂肪のかたまりである。
　そしてその脂肪は、乳房が巨大化するにつれて、他の部位も脂肪が多くなる危険性を孕んでいる。
　巨乳まではまだお腹に贅肉のないスレンダー巨乳の確率が高いが、Ｊカップ以上という、爆乳の世界でも上級のクラスになると、途端にプランパーの危険性がのしかかってくる。

　1994年に始まった伝説的なシリーズ『ザ・爆乳』でも、お腹に贅肉のない女優は少なかった。洋物雑誌に掲載されている外国のモデルにしても、確かに胸は巨大だが、お腹にも贅肉があるというプランパーやプランパー気味の女性が多かったように思う。
　実際、風俗でもＩカップ、Ｊカップとなると、「ただのデブやん」とか「脂肪のかたまりやん」と感じる子に会う確率は高くなる。
　個人的にはそれでもオッパイに高さと張りがあって、弾力豊富に大きく前へ突き出すパツンパツン乳の子ならば問題ないのだが、とにかく胸がでかければいいというのはマニアの世界だ。
　非マニアにとってはそうではない。
　お腹の贅肉や段腹を目にするたびに、普通の人には抵抗感が生まれる。嫌悪感を感じた人もいただろう。そうしたヴィジュアルの蓄積が生み出したものは、（もちろん、爆乳アイドルのマーケットの準備というプラスの側面もあったが）「爆乳＝デブ」、つまり、爆乳は太っているからいやだというマイナスイメージだったのではなかろうか。
　大衆に近い巨乳ファンが求めていたのは、いわゆるぽんきゅぽんだった。
　オッパイがポンと出て、胸がキュッと締まって、ヒップがポンと出る、いわゆる、出るところは出て凹むところは凹むナイスバディ。
　だが、ぽんきゅぽんというよりは、胸もお腹も出ている「ぽんぽんぽん」の爆乳モデルは、彼らの好みではなかった。
　巨乳はいい。デブじゃないし、胸が大きくてスタイルがいい。でも、爆乳は太ってるからいやだ。胸もでかいけど、腹もでかい。あれじゃあ巨乳というより、ただのデブ、プランパーだ。
　恐らく、爆乳に対するイメージはこんな感じのものだったのだろう。その負の通念を、鮮烈に、ものの見事にぶち破ってみせたのが夏目理緒だった。

　最初に彼女を見たとき、その細い体幹と巨大なバストとのアンバランスなコントラストに、衝撃を受けたことを覚えている。一番の印象は、「細え！　胸でけぇ！　この子、凄えっ！」だった。
　一般的に、爆乳化すれば、乳房は下垂し、左右のふくらみはハの字に広がる確率が高くなる。
　夏目理緒はＪカップだった。つまりそうなる可能性は高かった。にもかかわらず、彼女のビキニ乳は美しかったのだ。
　ビキニに包まれた双球は、驚異的なボリュームを誇りながら重力をものともせず、まるで男性の視線へ突き出すバルコニーのように高く美しく立体感たっぷりに飛び出し、寄り添うバルーンのように密着していた。まさに21世紀日本の奇跡、世紀の美爆乳だった。
　そして何よりも、それだけのボリュームと美しさを誇りながら、彼女の身体は驚異的に細かったのだ。お腹には贅肉ひとつついていなかった。今まで自分が吸収してきたデータバンクからすれば、あのバストにあのスリムな体幹、あの細いウエストの組み合わせはありえなかった。
　こんなに細いのに、こんなに胸おっきいの!?
　恐らくそれが、多くの人が懐いた印象だったに違いない。
　彼女はたった一人で、「爆乳＝デブ」という通念をなぎ払ってしまったのだ。思い切り爆乳でも、デブじゃないこと、デブじゃない女の子がいること、デブじゃなければ思い切りでかい乳もいいことを理解させてしまったのだ。そして、今まで「爆乳＝デブ」として敬遠してきた人たちに、爆乳の価値を刻みつけてしまったのである。

　夏目理緒以降、彼女のポジションを継ぐ者は出ていない。胸の大きさでは凌駕する存在が出ているが、あの巨大なバストと細すぎるウエストとのアンバランスなコンビネーションを追随する者は皆無である。
　胸は大きくてもウエストは太い「樽ドル」の増加が、逆に夏目理緒の奇跡を物語っている。夏目理緒が出ていなければ、彼女たちはデブとして片づけられていただろう。樽ドルたちは、夏目理緒の歩いた足跡から生まれている。
　爆乳へのマイナスイメージを払拭し、爆乳に対する抵抗感を消し去り、爆乳に対する免疫をつけ、爆乳に対する価値観を植えつけたのは、夏目理緒である。
　その意味で彼女は偉大である。たとえ彼氏との問題写真が流出しようが何が起ころうが、日本巨乳史における夏目理緒の歴史的意義は、決して揺らがないのだ。


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