ファミリーレストランに行ったことのない人は、恐らくほとんどいないだろう。ファミリーレストランで仕事をする漫画家やシナリオライターは多いようだが、鏡はほとんどファミレスに行かない。一人で飯を食うのが嫌いなのだ。だが、雁須磨子のこの本は一人でも楽しく読めた。


　舞台は、その名の通りファミリーレストラン。
　そこでバイトする女の子がヒロインだ。ヒロインの名前は羽柴。彼氏持ちである。同棲中の彼氏はウェイトレスマニアなのだが、ヘンタイではなく、意外と彼女をよく観察しているしっかり君だったりする。
　バイトの子にも、色々いる。ファミリーレストランにも、いろんな人がやっ来る。物語の帯の文句を借りれば、「バイトギャルに翻弄される店長、〆切り前のエロ漫画家、ナンパな老人常連客、ウェイトレスの制服マニア……私たちの恋はマニュアル通りにはいきません!?」。
　主人公は、各話によって違う。ファミレスで働く女の子たちが主人公だったり、ファミレスに来るお客さんが主人公だったり。
　お話も色々だ。たとえば、セックスの後、彼氏に「ファミレス臭い」と言われてお店でずっと匂いを嗅ぎまくっているヒロインの話とか、常連ということに反抗して飲食店からファミレスに鞍替えしてそのクールさを楽しんでいるサラリーマンが、お金を忘れてしまってあたふたする話とか、夏の真っ盛りに冷房が壊れて汗だくになりながら働く話とか。どたばたはあるけれど、全編通しているのは修羅場になりすぎず、ほのぼのと、淡々と、さらりと人生の顛末を描いていくことだ。
　ヒロインの羽柴が、パーマ屋の女の子とレズ関係に陥ってしまう話がある。髪の毛を切って帰ってくると、彼氏はお休み中。ウェイトレス姿を見たいかなと思って制服も持って帰って来たのに「うるさい」の一言。
　翌日、ヒロインはファミレスでパーマ屋と再会する。そのまま彼女のところに行き――セックス。自宅に戻ると、彼氏は起きていたが、すぐ寝てしまう。別れの序曲？
　明日会えない？　とパーマ屋の女性に言われて、また彼女は出かけていく。そして、浮気（相手は微妙だが、たぶん、これは浮気だろう）。自宅に戻ると、彼氏は玄関先で眠っていた。こんなところでぶっ倒れるくらい疲れてんのかしら……と思いながら声をかけるも、返事なし。そんな彼氏の姿に、ふと、ヒロインは思う。

この人を捨てるんだろうか
案外本気で

　動物の髪の毛を撫でるとα波が出る話を思い出しながら、ヒロインは彼氏の髪の毛を撫でる。その瞬間、寝ていたはずの彼氏が手をつかんでいた。

「おまえ、最近しょっちゅうパーマ屋の匂いすんのな」

　修羅場は起きず、ヒロインは彼女に別れを告げる――。こんなふうに、でっかいドラマはないが、小さなドラマの中に、人あり、人の心あり。それがほのぼの、しみじみと心にしみ入ってくる。味のある漫画だ。正直、この１巻で終わらずに、２巻、３巻と読みたかった。
ファミリーレストラン

ファミリーレストラン「JOHN’S」の店員、羽柴は彼氏の晃太郎と同棲中。ファミレスとうだつのあがらない彼氏との日々にマンネリ状態。そんな時、羽柴はファミレスグループの御曹司、天王丸にハワイ支店の店長候補に指名され、ハワイ支店での1ヶ月研修を命じられる。突然のチ 　［続きを読む］

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