多くの人は、自分の個人的感情や思い出で、基礎的な誤謬を犯している。こと、学歴社会については、自分の受験時代の記憶に引きずられて、ずいぶん感情的に錯誤を犯すようだ。より高度な知的活動を求められる２１世紀という時代にあって、果てしない後退としか思えない「学歴社会無用」を唱えてみたりする。挙げ句の果てには、学歴のある人と自分とはそれほど差はないとも言ってみたりする──自分でも、それがただの現実逃避＆自己の正当化だと気づきながら。
　個人が学歴社会を嫌いなのはかまわない。いい思い出はなかった。勉強は嫌いだった。それはいい。その事実を枉ようとは思わない。しかし、だからといって学歴社会はいらない、頭のいい人が優遇されるのはおかしいと言い張るのは、それこそ頭のおかしな話だ。
　勉強した人が優遇されないとしたら、誰が勉強するというのか？　勉強するインセンティブがなくなった社会で、誰が勉強に邁進するというのか？　そうなったとき、社会自体の知力がどのように低下し、どのように日本が国際的競争力を失って二流国家に堕すのか、想像したことはあるか？　君は日本に出張しに来ているアメリカ人のつもりか？
　学歴社会は必要である。ただ、あまりに学歴偏重すぎること、学歴形成のシステムがテレビチャンピオン形式、つまり、一度脱落したら敗者復活戦がないというところが、問題なのだ。己の個人的感情から、大事な部分を見誤ってはならない。学歴社会はいらないと無責任に言い張るのは、自分が数学が苦手だったから勉強科目に数学はいらないと主張するのと同じくらい、自分勝手で愚蒙な行為である。