フルプライスで出すのではなく、複数に分けて連載する形でリリースする美少女ゲームを連載型タイトルと言うのなら、連載型タイトルには、決して無視できない側面がある。
　連載型タイトルの場合、非連載型のタイトルに比べて、「より」ストーリー性とエンターテインメント性が要求されてしまうということだ。
　非連載型タイトルだって、エンターテインメント性は求められている。それは当たり前の話だ。だが、連載型タイトルの場合、非連載型のタイトルに比べて「より」面白さを追求しようという意識と危機感がなければ、まともなものが生み出せない。
　小説の世界だって、巻数が重なればだんだん読者が減っていく。美少女ゲームにしても同じである。減少するユーザーをつなぎとめるものは、面白さしかない。とびっきり面白くなければ、ユーザーは急速に離れていってしまう。２巻、３巻と巻数が重なるにつれ販売数が激減し、これなら１パッケージで出した方がよかったということになるかもしれない。
　それだけではない。先の失敗という前例があるために、次にまた同じように連載型のタイトルを出しても、ユーザーの食いつきが悪くなってしまうのだ。結果、連載型ソフトのマーケットが充分広がらぬうちに収束するという最悪の結果が訪れる。
　当たり前のことだが、連載してもユーザーがついてくるほど面白いものを書くためには、それだけの力量がいる。そして、それに必要な力量を「実感」している者、「正確に把握している」者は少ない。たいていは「見誤っている」。もっと面白くないと厳しいだろうとは思っているが、「どれくらい」厳しいのか、より面白くするということが「どれくらい」難しいことなのか、「どれくらい」ど真剣に面白いものをつくろうという気持ちで向かわないと実現できないものなのかを実感している者は、ほとんどいない。
　さらに最も悲劇的──いや、喜劇的か──なことに、「より面白い」ものを書くだけの力量を持った書き手は、この業界にはほとんど見当たらないのだ。読んでもらえるかもらえないかのせめぎ合いを経験している小説の世界と違って、買ってもらったらある程度読み進めてもらえるのが当たり前のぬるま湯の世界に生きている人間が、「次を読んでもらえないかもしれない」という緊迫した世界にまともに向き合える可能性は、果たしてどれほどのものか。
　『パンドラの夢』のシナリオを書いている時、分岐なしの一本道という世界を前にして、「つまらなかったら先へは進んでもらえない!!」と恐懼したものだが、その意識と危機感を、どれほどの書き手が持てるか。
　作り手は、もっと面白さに対して畏怖する必要がある。「次は買ってもらえないかもしれない！」ということに対して、自分が今思い描いている以上の危機感を持つ必要がある。連載型のリリース形式を成功させるためには、自分が考えている以上の緊迫した危機感が必要なのだ。
　多様性はあるべきだが──絵柄の多様性やゲーム内容の多様性を排除して閉塞感に陥っているのが今のエロゲー市場だが──クズの多様性はいらない。低質なもの、値段に釣り合わない内容のもの──ボリュームではない、クオリティだ──が早期に広まってしまうと、マーケットを形成する前にぽしゃってしまうのだ。
　良質のものが生まれるのならば、それはひとつの可能性を開くだろう。しかし、低質な追随者があまりにそのあとにつづくのならば、可能性は閉じられるだろう。
　単純に作品を出してみるというだけでは不十分なのだ。それによって生まれる新しいマーケットのことまで考えてリリースを考えていくことも必要なのだ。充分な危機感があれば、そういうことに考えは及ぶものである。だが、そういう思考が徹底的に抜けているのが、エロゲー業界なのだ。