2006ワールドカップ。
　ドイツがポルトガルを下して３位におさまった。ポルトガルの中心的ＤＦカルバーリョは出場停止、ミゲロも怪我で欠場とあっては、ドイツの攻撃陣を止められるはずがない。それにEURO2004でで忠実なドイツ的サッカーを行ったギリシアに対して、ポルトガルは完敗している。予想通りの結末だったが、そんなことはどうでもよいことだ。
　その人には、鏡は会ったこともないし、もちろん話したこともない。メールをしたこともない。SNSでちらっと日記を覗いたぐらいだ。同一の平面にいるが交わらない２つの線分のような関係だった。けれども、訃報を知って書かずにいられなくなった。
　堀部秀郎（ほりべひでろう）氏が亡くなった。
　18禁ゲームにどっぷり浸かっていない人にとっては知らない名前かもしれないが、堀部秀郎氏は18禁ゲームのひとつの顔だった。鏡も一時期連載させてもらっていた月刊美少女誌『ＰＣエンジェル』の表紙をずいぶん長い間にわたって描かれていた。つい今春、イラストレーター14年の集大成として初めての画集を出されたばかりだった。初めてと聞いたときには意外に感じたものだ。
　その堀部秀郎氏が亡くなった。
　原因は急性心不全だという。あともう少しで──4日で──37歳に手が届くというところでのことだった。
　お仕事をしたことはなかったけど、彼の絵は好きだった。彼の描くキャラクターも好きだった。亡くなっていい方ではなかった。ずっとその絵を見ていたい方だった。
　もう彼の新作は見られない。新しい絵は見られない。萌え絵ばかりが大手をふるう現在のマーケットにあって、彼の絵は希少以上の価値を持っていたのだ。萌えオンリーの今でも、マーケットが萌えオンリーの路線から多岐路線に変更する未来でも、彼の絵は大きな価値と大きな輝きを持っていたし、持つはずだった。
　だが、彼の新作は二度と見られない。彼が残した美しい痕跡を見ることはできるが、これから未来の軌跡を見ることはできない。
　業界の人間としても、一人のファンとしても、悲しいことだ。今はただ、書斎からご冥福をお祈りするだけである。どうか、安らかにお眠りください。