『翠星のガルガンティア』

　ここ数年の中では、『TIGER&BUNNY』に並ぶ秀逸なアニメだとぼくは思っている。またロボットものの歴史の中でも、ＡＩを人間的自立（思考的自立）を支えるコーチとして描いた、画期的な作品だとも思っている。そして、１人の人間の精神的自立を描いたものとしても、非常に優秀な作品だと思っている。
　
　しかし、このインタビューには首を傾げた。
　仕事もの？　利他主義？　低い次元をうろついているというか、勘違いをされているのではないか？

　『ガルガンティア』では若い人向けに仕事ものを描こうとしたということだけど、正直、クライアントの要求を満たしている、つまり、利他主義を満足させているようには思えない。

　仕事ということと生活ということがごちゃごちゃになっていて、仕事ものとしては決して成功してはいない。

　そもそも、すでに強大な組織の中で「仕事」をしている人間が、自分で考えて他人のために仕事するように変化をする姿を描いても、仕事ものにはならない。それは仕事の変質（仕事への取り組み方の変化）であり、自立的成長にしかならない。仕事ものではない。

　全体として仕事を描いていても、主人公に仕事がメインの問題として組み込まれていないため、「精神的な自立」や「ヒディアーズの謎」などに飲み込まれて視聴者には伝わらない。

　組織の中でどう働くかにしても、さっさと人類銀河同盟から切り離されてしまうので比較対象としては弱いし、第一、主人公が集団のトップではなく一員である時点において、集団論にも組織論にもならない。もちろん、仕事ものにもならない。組織や集団の中でどう自分を見出していくかという話、やはり自立の話になってしまう。

　きつい言い方だけれど、仕事ものとして描くには監督は思考不足だった、力量不足だったというのがぼくの考え。仕事に対する洞察や考えが、まだ不十分だった。まだ浅かった。それを物語に落とすのも上手くなかった。結果、精神的成長ものとしては大成功だったけど、仕事ものとしては失敗作になった。
　
　若い人向けに仕事ものというのなら、仕事をしていない人間が仕事をしていくということを描いた方がもっとわかりやすかった。でも、実際はそうはなっていない。ただ、非常に指揮系統がはっきりしていて自立的思考を要求されなかった組織から、自立的思考を要求される組織に移って自立した人間を描いたというだけ。
　
　それが仕事もの？
　いや。
　ビルドゥングスロマンだよ。監督の勘違い。本人が自立的思考をしない代わりに、人類銀河同盟があり、すぐそばにＡＩがあったというだけの話。結局、自立の話。仕事の話ではない。仕事の変質を描いても、「若い人向け」の仕事ものにはならない。にもかかわらず、仕事の変質を描いて仕事ものを語る勘違いとそのレベルの残念ぶり。
　
　やはり、仕事ものとしては完全に失敗作だった。にもかかわらず「仕事もの」を口にする監督には、作り手として非常に違和感を覚えるし、未熟さ（レベルの低さ）を感じる。正直、そのことは口にしないでほしかった。

　ぼくは、批評というのは、クリエイター自身が見えていなかった盲点を突きつけることによって本人をはっとさせることにあると思っている。だから、あえてこの記事は、監督に向けてストレートに書いている。勘違い、低レベルという言葉は、本人に奮起と覚醒を促すためである

　本当に無能な人にブログを費やす価値も必要もない。ある程度力のある監督だからこそ、ぼくはきつい言葉で書いている。