文学は、娯楽小説ではない。
　受け身でストーリーを追いかけていけばその展開で愉しませてくれる、というジェットコースター的乗り物でもない。
　文学は解剖するものである。どう分析してやろうかなと、知の戦略を練りながら、分析の罠を仕掛けながら読むものである。ただ流れを追いかけるだけ、ただストーリーを愉しもうとするのではいけないのだ。
　だが、批評理論を知らない限り、そういう読み方はしない。たいていの人は、感性で文学を読んでしまう。
　感性で拾おうとすると、その時自分が抱えているマイナスの感情や小さな絶望や精神的な傷やトラウマが反射される。
　たとえば、鏡は中学２年生の時、窓際の机でゲーテの『若きウェルテルの悩み』を読んだ。ロマン主義ばりばりの作品である。
　クラスに馴染めない疎外感。女の子を好きになってもなかなか振り向いてもらえないという孤独と小さな絶望。ニキビが激しくなったせいか、同級の女の子たちとの距離も１年生の時に比べて著しく遠のいていた。そういうマイナスなものを抱え込んでいたからだろう、絶望に追いやられて自殺へ突き進んでゆくウェルテルにシンクロしてしまって、危うく教室で泣きだすところだった。
　中高生の頃は特に感受性が高いため、自分の傷や不安感が精神的な皮膚のすぐ裏側にほとんど剥き出しになっていたりする。思春期の悩みとは、ほぼロマン主義の悩みである。だから、中高生はロマン主義の薫りを含んだ小説に弱いのだ。