人はもっと注意せねばならない。ありとあらゆるエンターテインメントの中で、ゲームだけが大容量化という恐竜的進化を遂げていることを。
　たとえばエロゲーを見よ。
　1995年まで、エロゲーは、<5MB>のメディアで語られるエンターテインメントだった。フロッピーディスクの枚数が5枚だったり10枚だったりというのはあったけれど、それは分厚い小説と薄い小説があるようなものだった。
　だが、ＣＤ－ＲＯＭの登場によって、<650MB>という100倍以上の大容量で語られる世界に変わった。さらにＤＶＤ－ＲＯＭの発明によって、実にDOS時代の1000倍近くに値する<4.7GB>という規模で語られる世界になってしまった。
　4.7GBというのは、普通の文庫サイズの小説にして3万冊という途方もない世界である。
　フィルムという世界、出版物という世界では、メディア自体の大容量化は起こってはいない。映画の2時間枠が20時間枠になることはないし、漫画も1頁あたりの大きさが今の10倍になることもないし、推理小説が必ず2000頁以上の長さを持たなければならないということもないだろう。せいぜいお正月の特番で12時間連続ドラマが放映されるぐらいだ。
　シナリオ単体のボリュームにしても、DOS時代からWindows時代への移行期、鏡が要求されたシナリオ容量は、1ゲームあたり200KB程度だった。今や、フルプライスのゲームには2MB近くが要求されるようになってしまっている。かつては小説1冊分だったのが、今では小説10冊分になっているのだ。それは純粋に恩恵と呼ぶべきなのだろうか。それとも罠──自らはめてしまった首輪なのだろうか。