まさにクリエイター向けの一冊である。
　まだテレビドラマを記録しよう、ランキングをつけようという空気がなかった1997年から、2006年までのテレビドラマの全リストと個人的なベストテンとを収録した一冊だ。テレビほど現代の生活に欠かけないものはない。同様にテレビドラマもまた、現代の生活に密着している。その意味では、現代の文化や時代の趨勢を読むには、もってこいの資料である。だから、まさにクリエイター向けの一冊なのだ。マーケットを読みたいクリエイターが持っておきたい一冊なのだ。本書があれば、テレビドラマの流行を頼りに時代を解剖することができる。たとえば、2000年のテレビドラマ『池袋ウエスとゲストパーク』に、宇野常寛の言うゼロ年代の文化を読み取ることができるだろう。同時に同じ2000年のテレビドラマ『ＴＲＩＣＫ』に大澤真幸の言う「アイロニカルな没入」を感じ取ることができるかもしれない。
　個人的に残念なのは、視聴率ベストテンが掲載されていないことだ。個人的なランキングももちろんおもしろいのだけれども、資料としては視聴率ランキングもほしかった……というのが個人のわがままな感想である。
テレビドラマベスト・テン10年史

　数学が原因で京都大学受験に失敗したぼくにとっては、数学は縁遠い世界ですが、その数学の世界で難問を解決したペレリマンという数学者の本を読みました。
　数学の世界には、フランスの数学者アンリ・ポアンカレが1904年に出したポアンカレ予想という難問があります。
「単連結な三次元閉多様体は、三次元球面と同相と言えるか」
　素人にはさっぱりわかりませんが、本書を読むとそれがわかってしまう。宇宙の形はまるいのかまるくないのか、ということだそうです。地球の形がまるいことはすでに証明されていますが、宇宙の形についてはわかっていません。でも、ペレリマンがその難問を解きあかして、宇宙の形はまるいということを証明してしまったのだそうです。
　実はペレリマン、数学世界のノーベル賞と言われるフィールズ賞を拒否し、100万ドルの賞金についても受け取りを拒絶しています。そのペレリマンを追いかけたドキュメントが、本書です。元はＮＨＫのテレビ番組で、ぼく自身は未見ですが、未見でも、数学が苦手でも、なかなか楽しむことができました。講談社ブルーバックスの数学関連の本よりも、わかりやすくて面白いように感じました。
100年の難問はなぜ解けたのか

　オタク文化の中での巫女さんの位置というのは、ハードポルノ小説の世界の三大ヒロイン――女教師・看護婦・スチュワーデス――くらい高いポジションにあるのではないかと思うのだけれど、なかなかまともな解説書がない。その中で、なかなかいい一冊が見つかりました。
　巫女装束の着付け方法が写真とともに紹介されているのが、恐らく一番目を惹かれる部分でしょうが、それ以外に巫女さんの一日や巫女さんへのインタビューなどのコーナーもあって、資料としては非常にコンパクトでいい内容です。
巫女さん入門

　エロ漫画について考えるなら、是非とも読んでおきたい一冊。受験の世界でいえば、世界史を学ぼうとする者にとっての山川出版社の詳説世界史みたいなもの。
　統括的な、理論的なパースペクティブというのは見当たらないけれども――どちらかというとジャンルや作品の紹介に堕してしまった部分があって、エロ漫画に対する理論的な説明が欠けているとかミームばかり援用しすぎるといったきらいはあるけれど――とりあえずの通史を描いてみせたこと、そしてエロ漫画とオタクの子たちとの関係を描いてみせたことは、充分評価してもいいのではなかろうか。付箋を貼りながら読み進めていったけれど、特に、

「萌え」においては、欲望に煙幕が張られ、曖昧にされ、韜晦される。「萌え」の根底には性（性的や欲望やエロティシズムとその表現）に対する漠然とした忌避とフォビアがあることが見て取れる。

という一節は非常に示唆的ではっとさせられた。美少女ゲームというひとつの「萌え」マーケットを考える上でも、有用な一冊だと思う。
エロマンガ・スタディーズ