フランスにジル・ドゥルーズという哲学者がいた。現代思想の雄である。

　そのジル・ドゥルーズの考え方で、「欲望の機械」というのがある。人を発情させる機械ではないよ。
　ほとんどの人は、欲望というのは個人個人に眠っていると思っている。つまり、欲望は凄く個人的なもので、それを社会や企業が掻き立てて購買に引っ張っていると考えている。
　ドゥルーズの考えは違う。
　欲望という全体がある。その欲望が、社会や個人に働きかける。社会もまた、個人や欲望に働きかける。個人もまた、社会や欲望に働きかける。つまり、欲望は個人個人の中にあるものではなく、全体としてあるものなんだ、そして社会や個人と連動しているんだっていう考え。
　その一例。たとえば、買うつもりじゃなかったのに買っちゃって、あとで「なんで買っちゃったんだろ」って思うやつ。今の買い占めが典型例ね。自分の脳味噌や個人的な欲望から買い占めているのではなく、「買い占めたい」という欲望全体が発生していて、その欲望が個人個人に買い占めをさせている。そして個人自らも、買い占めの欲望に身を投げ込んでいる。買い占めという欲望の機械と個人という機械や社会という機械が、お互い歯車でつながっていて、動いてしまっている。
　ドゥルーズは、欲望も、ひとつの大きな機械だと考えている。社会もひとつの機械。人間もひとつの機械。みんな歯車を持っていて、その機械は歯車を通して組み合わさっている。組み合わさって連動している。
　さて、今、この「欲望」を不安に置き換えてみるとどうなるか？
　不安という全体がある。その不安が社会や個人に働きかける。社会もまた、個人や不安に働きかける。個人もまた、社会や不安に働きかける。結果、不安がどんどん増幅され、増産されるシステムができあがる。
　今の状態ね。
　地震。原発。ニュースはコマ切れにいやな情報を流して社会不安を煽る。リアルタイムの情報は断片と事件性しかない。断片は人を不安に突き落とすし、事件性もかなりの高確率でマイナスの電波を帯びる。いいニュースって、少ないからね。そして個人もそれに反応して、不安を増大させる。
　社会全体、個人個人で不安を増幅して自分たちで苦しんでいる。でも、それは半分自業自得なところがある。リアルタイムで断片のニュースが入ってきて、不安になる。そしてまたニュースやツイートを掻き集めて不安になる。何も知らない不安から逃れようと断片にすがりついて、余計に不安を増幅させてしまっている。ぼくたち、何をやってるんだろうね。
　今こそ、ぼくは叫びたい。
　ツイッターを切れ。つぶやきを切れ。
　もちろん、被災地以外の人限定ね。リアルタイムで更新される情報は、全体が見えないだけに社会不安を増長させることしかしない。被災地にいない人は、本当に必要な情報（輪番停電や電車情報）を得る時以外は、ツイッターもつぶやきも切っちまえ。わざわざ自分から不安の海に自分を投げ込むな。不安の世界に投身自殺する必要はない。
　ぼくもツイッターは切った。自分へのレスしか見ていない。mixiのつぶやきも切った。ニュースなんてのは、夜にまとめて見ればいい。細切れのニュースは断片しか出てこないから不安になる。でも、夜のニュースなら、ある程度全体が見えるので、それほど不安にならない。
　ネットは便利さと同時に不安の増幅装置を持ち込んだ。そしてその増幅された不安に対して、ぼくたちは対処できるほどの精神的強度を持っていない。ぼくたちは、敢えてネットから身を引き離し、必要な時だけアクセスするという取捨選択を行う時に来ている。

　みんな勘違いしているけど、フルプライスとミドルプライスは違うよ。
　7800円以上はフルプライス。4800～6800円はミドルプライスだよ。